2014 Fiscal Year Annual Research Report
テトロドトキシンの生合成経路の解明-LC/MSを用いた微量生合成中間体の探索-
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13J05534
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
工藤 雄大 東北大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 天然物化学 / 構造決定 / 生理活性 / 生合成中間体 / フグ毒 / イモリ / 電位依存性ナトリウムチャネル / LC-MS |
Outline of Annual Research Achievements |
1. フグ毒テトロドトキシン (TTX)は強力な神経毒であり、世界中で食中毒例が報告される。TTXの生合成経路に関わる出発物質、酵素、反応などは未だに一つも同定されていない。このTTXの生合成経路解明の手掛かりを得るため、新規TTX類縁体 (生合成中間体)の構造決定を目的とした。質量分析装置を用いた網羅的な探索を実施し、これまで予想されていなかった特徴的な骨格構造を持つTTX類縁体、4,9-anhydro-10-hemiketal-5-deoxyTTX (2)と4,9-anhydro-8-epi-10-hemiketal-5,6,11-trideoxyTTX (3)をオキナワシリケンイモリから得た。これらの成分の生合成経路上の位置づけを考察するため、各種生物の毒成分を分析した結果、化合物2が日本、中国、アメリカの有毒イモリ6種に共通して存在していた。更にTTXと化合物2の含有量を解析すると高い相関関係が示され、化合物2が重要な生合成中間体であることが示唆された。また、この相関関係と化合物2, 3の化学構造から、TTXの生合成の出発物質がモノテルペン (ゲラニル二リン酸)である可能性を示した。更に、TTXと化学的に等価な4,9-anhydroTTXを経由するTTXの生合成経路の最終段階についても考察した。 2. イモリの毒の起源については内因性か、外因性か未だに議論中であるため、生合成研究の一環としてこの点についても追及した。研究室内で有毒イモリの卵を孵化させ、無毒の餌で70週齢になるまで飼育した後、毒量を調べた。その結果、幼体の飼育イモリからTTXは検出されず、毒の生産は確認できなかった。その一方で、同じ生息地で捕獲した野生のイモリ(幼体)からは、TTXとその類縁体が多量に含まれていた。これらの結果はイモリの毒が外因性であることを強く示唆していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
目的としていた新規TTX類縁体を得た。特徴的な構造を有す10-hemiketl型のTTX類縁体が発見できたことは大きな収穫だったと捉えている。各地域、各種生物について詳細な毒成分の解析を行うことで、本研究で得られた10-hemikatal型のTTX類縁体 (4,9-anhydro-10-hemiketal-5-deoxyTTX)が、日本、中国、アメリカなど世界中の有毒イモリに共通して存在することを示した。更に、有毒イモリにおいて本化合物とTTXの含有量の間で相関が認められ、生合成中間体であることを示唆する結果を得た。これらの毒成分の解析結果、また新規TTX類縁体の化学構造から、これまでとは異なる新たなTTXの生合成経路を推定することができ、目的であるTTXの生合成経路の解明に近づいたと考えている。推定したTTXの生合成経路について検証を進めることで、生合成研究の更なる発展が期待できる。 また、イモリの毒の起源を解明するために、イモリを卵から幼体になるまで約70週間無毒の餌で飼育した。飼育した幼体のイモリからは毒が検出されず、飼育イモリは自身で毒を生産しないことを示すことができた。一方で、同種、同サイズ、同地域に生息する野生のイモリからは多量の毒が検出されており、イモリのTTXの起源が外因性であることを強く示唆する結果が得られたといえる。本研究から陸における真のTTX生産者が、イモリの餌となる虫などの小動物、あるいは微生物である可能性が示され、陸における毒起源の解明の重要な一歩になったと捉えている。 以上より、TTXの生合成経路、起源解明の研究はおおむね順調に進展していると判断しており、今後も更に発展させていく。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果から、テトロドトキシン (TTX)の生合成経路について様々な考察を行ってきた。LC-MSを用いた探索によって得られた新規TTX類縁体の構造から、TTXの生合成の出発物質がモノテルペン (ゲラニル二リン酸)である可能性が考えており、それに基づいて生合成経路の推定を行った。今後は、推定したTTXの生合成経路における中間体(予想生合成中間体)の更なる探索、同定を実施する。各種TTX含有生物の成分をLC-MSにて詳細に調べ、予想生合成中間体の候補化合物の検出を目指す。これまで探索してきたTTX類縁体と予想生合成中間体は化学的な物性が異なることが推測されるため、探索過程における「成分の抽出」、「精製」、「分析」のそれぞれのステップを最適化する予定である。検出された候補化合物の大量抽出、及び単離、精製を行い、化合物の構造解析を試みる。得られた化合物の化学構造が現在推定している生合成経路に矛盾しない構造であるかどうか確認し、生合成経路への知見を深める。更に、予想生合成中間体の各生物における分布、含有量をLC-MSを用いて調べ、生合成経路への関与を考察する。 H26年度までの研究でイモリの毒の起源が外因性であることを示す結果が得られた。これを基に陸におけるTTXの起源を更に追及していく予定である。これまでの研究で得られた無毒イモリに対し、TTXやその類縁体を餌とともに経口投与することをで、イモリの毒の蓄積能を検証する。イモリが経口投与された毒を蓄積すれば、イモリの毒が外因性であることを支持する結果になると考えられる。 平成27年度の研究計画に記載した「新規TTX類縁体の生理活性の評価」は昨年度に実施、報告したため、上記の研究に注力する。
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Research Products
(8 results)