2013 Fiscal Year Annual Research Report
魚類の卵成熟ならびに卵黄吸収課程における糖、アミノ酸、及びイオン輸送機構
Project/Area Number |
13J05574
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
古川 史也 宮崎大学, 農学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 卵黄 / 糖 / アミノ酸 / 脂質 / Yolk syncytial layer |
Research Abstract |
発生初期の動物は餌を食べることができないので、主に卵黄の栄養物質を使って発生を進める。魚類のみならず、脊椎動物全体においても、発生初期の卵黄を原料とした栄養代謝機構については不明な点が多い。本研究ではまず、魚類の発生初期に起こる様々な栄養物質の代謝・輸送機構の検討を行った。まず、ゼブラフィッシュを用いて大規模な遺伝子解析を行った。アミノ基転移酵素、脂肪酸輸送体、ケトン体合成酵素、モノカルボキシル酸輸送体、グルコース輸送体などを含め、栄養の代謝・輸送に関する遺伝子を約60種類クローニングし、受精7日後までの間における発現変動をRT-PCR法により調べた。次に、卵黄の吸収が活発な時期であり、かつ肝臓による遺伝子発現の影響が少ないとみられる受精24時間後までの間に発現が上昇する遺伝子をピックアップし、in situ hybddization法により遺伝子の発現部位を同定した。その結果、多くの遺伝子がyolk syncytial layer (YSL)において発現しており、さらにその大部分が糖新生に関与している可能性があった。これらの遺伝子を受精3日後のゼブラフィッシュ幼生を使いin situ hybridization法に供すると、多くの遺伝子で発生が始まった後の肝臓にシグナルが検出された。 これまでに、受精24時間後のゼブラフィッシュにおいて体内のグルコース量が増加することが報告されているが、この原理については全く知られていない。受精24時間後のゼブラフィッシュには肝臓がなく、また餌を食べることもできないため、上記に見られた糖新生関連遺伝子が発生初期のグルコースの増加に寄与しているものと考えられる。これらの遺伝子の発生過程における発現変動を定量PCRにより詳細に調べた結果、受精24時間後までに発現が高く、その後低いレベルに保たれるものと、受精24時間後までの発現のピークの後、2日以降にも再度上昇するものが見られた。これらは、YSLでの糖新生に特異的に働くものと、その後肝臓での糖新生にも関与するものと考えられる。 上記の糖新生に関連すると予想される遺伝子の中で、ある遺伝子が特に受精12時間後をピークにYSLに強く発現していた。現在はこの遺伝子に着目し、発生初期のゼブラフィッシュにおける遺伝子機能解析に有用である遺伝子ノックダウンを用い、糖新生への関与を検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでほぼ全くの不明であった卵黄の吸収機構について、YSLでの糖新生がかなり重要な現象であることを示唆する結果を得られた。これは、「魚類の発生初期には炭水化物は不要である」というこれまでの通説を覆すものである。物質の輸送に重きを置いた当初の予定より研究の方向性が若干ずれたものの、大きな後れを取らず研究を進めることができている。現在は糖新生の起こる時期に重要だと考えられる遺伝子に着目し、その機能の解析を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、当初はアミノ酸やイオンを含めたYSLにおける物質輸送機構に重点を置いていたが、これまで得られた結果からYSLにおける糖新生メカニズムの解明に軸足を置いた研究に移行しつつある。その結果、イオンやアミノ酸のみならずグリコーゲンやグリセロールの貯蔵量の変化にも対応せねばならず、今後は生化学的な解析手法が必要になってくる。すでにHPLCや比色定量法などの方法でこれらの解析に着手しているが、今後は必要最小限な手法で結論が出せるように模索していきたい。
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Research Products
(4 results)