2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13J05650
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岸本 廣大 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 古代史 / ギリシア / ローマ / リュキア / 連邦制度 / 連邦認識 / 公職者 / 受容 |
Research Abstract |
本研究の目的は、古代ギリシアの各地で形成された、現在の連邦に類する共同体(以下、連邦とする)に対し、当時の人々がどのような認識を有し、またそれがどのように変化したのかについて、ローマの東方進出と支配という視角から明らかにすることである。 本年度は、まず連邦を表す古代ギリシア語から当時の人々の連邦認識に迫った。史料の分析により、特にヘレニズム時代に連邦を意味する専門用語となったシュンポリテイアの初期の事例が、文献資料では前2世紀のポリュビオスの作品に、碑文資料ではリュキア地方(現在のトルコ)にあるアラクサ市の前2世紀の顕彰決議碑文に見出されると結論付けた。他方で、その碑文には、連邦を意味する三つの用語(シュンポリテイア、コイノン、エトノス)が混在しており、当時の人々の連邦に対する認識が決して確固たるものではないことも明らかとなった。 続いて、当時の人々が連邦に期待した役割という視点から、主としてローマの属州となる以前のリュキア連邦を対象に史料の分析を進めた。碑文および文献資料の検討により、当時リュキア連邦に属していた人々は、その連邦に対してリュキア全体を代表した和戦や同盟などの外交交渉と決定、リュキア全体の軍事的・司法的・経済的統制、宗教に関する指導的役割を期待していたと考察された。一方、当時のローマは外交の対象、つまり外国として、当時のリュキアの人々に認識されていた。 以上の研究は、古代の人々の認識についてであったが、その認識を示す史料、特に文献資料は近世近代の人々を通じて伝えられてきた。そのため、その時代の人々の認識(受容)も史料を解釈するうえで検討の必要がある。本年度はその一例として、アメリカ合衆国の憲法制定過程に着目し、当時の議事録や政治的パンフレットの分析から、古代ギリシアの連邦が当時のアメリカの人々の立場や主張に応じて、都合の良いように受容されてきたことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、リュキア連邦に関する先行研究について、現在の研究状況の概要を把握することができた。リュキア連邦関連の史料も、主たる文献資料についてはほぼ分析を終えることができた。碑文資料も、連邦認識が芽生えた前2世紀から属州化以前の前1世紀まで、近年発表された史料も含め分析を進めることができた。近代アメリカにおける古代ギリシアの連邦の受容については、当初の計画では想定されていなかったが、その研究は、認識に対するアプローチの参考ともなり、リュキア連邦を主たる対象とする本研究に一定の寄与をなしたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、リュキア連邦がローマの属州となった後の時期に着目し、ローマの支配下で存続した連邦制度に対し、その属州に住む人々がどのような役割を期待していたのか、その認識について特に碑文資料の分析から考察を進める。また、ローマによる属州化の前後で、リュキア連邦の公職制度に変化があったことが知られている。そこで、連邦の中でも、それらの公職者が現地の人々にどのように認識され、またその認識がどのように変化したのかについて、史料の分析を行う。さらに、ローマと大きな対立がなかったリュキア連邦とは異なり、戦争を通じて属州化されたギリシア本土の連邦についても史料の分析を試み、リュキア連邦と比較を行うことも想定している。
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Research Products
(3 results)