2014 Fiscal Year Annual Research Report
異なる光環境下に生育するカタバミが及ぼすヤマトシジミの選好性メカニズム解明
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13J05767
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
山口 芽衣 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 摂食刺激物質 / ヤマトシジミ / シュウ酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
光環境は、ヤマトシジミとカタバミの相互作用を変動させる可能性を25年度に報告した。この報告では、ヤマトシジミ幼虫は、野外の明条件で生育したカタバミを摂食させると高い成長率を示したこと、また、カタバミの葉に含まれるフェノール性化合物および有機酸は、野外/室内の明条件で生育した場合、暗条件より含有量が高かったことについて記した。成虫・幼虫の選好性に関わると予想された化合物が光条件によって変動することが明確になったことから、26年度は、カタバミの抽出物を人工飼料に添加して幼虫に摂食させる生物試験法を開発し、幼虫の摂食を刺激する化学的因子を探索したところ、その一つを特定できた。これまで、ヤマトシジミを飼育できる人工飼料はなかったので、まず、一般食植性昆虫用飼料に寒天と水を混合した基本飼料を調製した。この基本飼料に対する幼虫の摂食量は少なかったが、カタバミ粗抽出物を添加すると摂食頻度が増し、より成長することがわかった。そこで、カタバミ抽出物を分液操作によって分画し、得られたエーテル、酢酸エチル、および水の各画分を人工飼料に加えて幼虫に与えた。その結果、幼虫は、水画分を加えた人工飼料に対して最も高い摂食活性を示した。水画分を誘導体化処理後、GC/MSを用いて分析した結果、主成分としてシュウ酸を検出した。シュウ酸は水画分の約15wt%を占めることが分かった。そこで、シュウ酸に着目し、標品シュウ酸を人工飼料に添加し摂食活性を調べた。その結果、幼虫は、人工飼料1gに対するシュウ酸量が3.15 -6.30 mmolのとき、最も高い摂食活性を示した。これは、野外に生育するカタバミの0.5から1.0 g(新鮮重)に相当する量であり、野外の明条件に生育するカタバミ葉のシュウ酸含量の範囲内である。これらの結果より、シュウ酸は幼虫の摂食刺激物質の一つであると判断した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度(2年目)の研究への取り組みは、引き続き良好である。25年度、野外および人工気象器における実験で、成虫・幼虫の選好性に関わると予想された化合物が光条件によって変動することが明確になったことから、26年度は、計画4について優先して実験を進めた。その結果、カタバミの抽出物を人工飼料に添加して幼虫に摂食させる生物試験法を開発し、幼虫の摂食刺激因子の一つを特定した。ここで特定した化学的因子は、今までチョウ目幼虫の摂食刺激物質として報告されたことのない物質である。幼虫の摂食刺激因子を特定したことにより、本研究の究極目標-異なる光環境下におけるカタバミ-内生微生物化学的相互作用が及ぼすヤマトシジミの寄主選択における選好性変化の生態化学的メカニズム解明-に、切り込むためのメスを手に入れたと考えられる。現在の進捗状況は良好である。最終年度に本研究の計画を全うすることは可能な状況であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
。カタバミを特徴付ける成分のシュウ酸が、幼虫の摂食刺激物質と同定できたことから、異なる光環境下で生育したカタバミに対する幼虫の選好性が、物質レベルで考察可能となった。今後は、成虫の産卵選好性に関与するカタバミ由来の物質を探索し、ヤマトシジミチョウとカタバミおよび生育環境の三者の相互作用を総合的に解明することを目指すと同時に、これまでの成果を国際学会で発表し、論文として公表する。
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Research Products
(1 results)