2013 Fiscal Year Annual Research Report
p53結合分子Aspp1による造血幹細胞の生死と老化の制御機構
Project/Area Number |
13J05828
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山下 真幸 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 造血幹細胞 / アポトーシス / Aspp1 / p53 / 白血病 / 悪性リンパ腫 / DNA損傷 / ストレス |
Research Abstract |
造血幹細胞は一生涯に渡り血液細胞を供給し続ける細胞であり、その質的維持は重要である。特に、造血幹細胞の遺伝子に変異が生じると、その変異は自己複製によって造血幹細胞プールに蓄積し、分化によって多数の血液細胞に伝播されるため、変異をもった造血幹細胞は白血病や悪性リンパ腫といった造血器悪性腫瘍が発症する温床となる。細胞には自らのDNAを監視し異常から身を守る仕組みが備わっており、その中心的な役割を果たすのががん抑制遺伝子であるp53である。p53は造血幹細胞の制御にも重要な役割を担うと報告されているが、造血幹細胞の質を維持する仕組みについてはまだ十分に解明が進んでいない。 本研究員らは、p53に結合しアポトーシスを誘導する因子であるApoptosis-stimulating protein of p53,1 (Aspp1)が造血幹細胞に特異的に発現していることを見出した。造血幹細胞におけるAspp1の重要性はほとんど報告されていなかったため、本研究員はAspp1をもたないマウス(Aspp1ノックアウトマウス)の造血幹細胞を解析した。すると、Aspp1ノックアウトマウスでは造血幹細胞の数が増加し、このマウスから得た造血幹細胞は骨髄移植、化学療法、放射線照射といった様々なストレスを受けた後でも生存しやすい反面、DNA損傷を蓄積する傾向が認められた。興味深いことに、Aspp1をもたないと生存に有利になるという性質は、予想に反してp53を欠損した場合にも認められ、特にAspp1とp53を両方とも欠損した造血幹細胞からは悪性リンパ腫や白血病がほぼ必発し、p53のみを欠損した造血幹細胞よりも有意に発病率が高いことが明らかとなった。これらの結果から、Aspplはアポトーシスを介した造血幹細胞の質的制御を担っており、造血器悪性腫瘍の発症を幹細胞レベルで抑制していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Aspp1が造血幹細胞のアポトーシスを制御し生理的に重要な分子であることを示した。さらに、造血幹細胞におけるAspp1の制御にはp53非依存的なものが存在することが明らかとなり、Aspp1とp53の両方をもたない造血幹細胞を移植することで、遺伝的に不安定な少数の造血幹細胞から造血器腫瘍を高率に発生させるマウスモデルを確立した。
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Strategy for Future Research Activity |
近年、次世代シークエンサーの登場により、白血病患者では腫瘍のみならず正常幹細胞でも変異が生じ、変異した造血幹細胞(前白血病幹細胞)が病態に寄与することが明らかとなった。前腫瘍幹細胞を標的とした早期診断法や効果的な治療法の開発が期待できるが、そのためには前腫瘍幹細胞の理解が不可欠である。そこで、本モデルと次世代シークエンサーを組み合わせた腫瘍細胞および発症前造血幹細胞の変異解析を行い、Aspp1およびp53を欠損した少数の造血幹細胞(=前白血病・悪性リンパ腫幹細胞)が、移植後増殖する過程でどんな変異を獲得し造血器腫瘍に至るのかを検討する。さらにpull-down assayによってAspp1の結合タンパク質を網羅的に同定し、Aspp1がp53非依存性に造血幹細胞および腫瘍化を制御する分子機構を明らかにしていく。
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Research Products
(4 results)