2014 Fiscal Year Annual Research Report
グラフェンを利用した生体膜モデル上での高精度分子計測手法の開発
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13J05980
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
岡本 吉晃 豊橋技術科学大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 脂質二重膜 / グラフェン酸化物 / 一粒子追跡法 / 量子ドット |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、グラフェン酸化物(GO)の有する特異的な蛍光クエンチ能を利用し、GO上にモデル生体膜を形成した新規分子計測手法を開発することである。H26年度は、先行研究にて私が構築した人工脂質膜/GO系を利用して、蛍光クエンチ効率の距離依存性とその分子機構を解明することを目指し、蛍光色素よりも量子効率の高い量子ドット(Qdot)を蛍光プローブとして支持平面脂質二重膜(SLB)表面を標識し、一粒子蛍光追跡(SPT)法によるGO上人工脂質膜の流動性評価を行った。 前年度の実験においてリンカーを介してSLB表面にQdotを標識する方法を確立したが、Qdotの非特異的吸着により拡散軌跡の取得が非効率であったため、さらなる実験条件の改善を行った。非特異的吸着抑制効果を持つ親水ポリマーであるポリエチレングリコール(PEG)を頭部に有するPEG化脂質を5%含んだSLB表面にQdotを標識することにより、完全な抑制は難しいものの非特異的吸着の量を減少させることができ、PEG化脂質を添加していないものと比較して拡散するQdot標識脂質が多数存在した。さらに、GO領域とSiO2領域の2領域間を拡散するQdot標識脂質も確認しており、GO上SLBの流動性を定量的に評価することが可能となった。これまでは、Qdotに対して結合している脂質の数が異なるものが混在していることを示唆する結果が得られており、結合状態の異なる脂質に対しては多数の拡散軌跡を用いた統計的な解析による拡散係数の評価はできなかったが、2領域間で拡散する同一のQdot標識脂質について各領域における拡散係数をそれぞれ解析することにより、GO領域とSiO2領域で拡散係数を比較することができた。その結果、GO上に形成したSLBはSiO2上のSLBの70%ほどの拡散係数を示すことを見出した。また、解析する粒子数を高めるため、レーザーアブレーション法によるGOのパターニングを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、前年度までに行ったQdot標識によるGO上SLBの流動性評価手法に親水ポリマーであるポリエチレングリコール(PEG)修飾脂質を取り入れることで、Qdotの非特異吸着を抑制して実験の歩留まりを飛躍的に向上させた。得られた拡散軌跡のMSD解析に当たり、Qdotに対し複数の脂質が結合することにより結合数の異なる脂質が混在しており、多数の粒子による統計的な解析はできなかったが、GO-SiO2領域間を拡散するQdot標識脂質の拡散軌跡をそれぞれの領域ごとに解析することにより、GO上SLBの定量的評価を可能とした。GO上に形成したPEG修飾SLBのAFM観察と合わせて、GO上およびSiO2上の拡散係数の違いを誘起する原因についての詳細を調べている。これは、蛍光強度を指標としたGO蛍光クエンチ効率の評価やGO上での多成分脂質膜の物性評価などを行う上での要素技術として非常に有用である。 また、効率的にGO上SLBの流動性を評価するために、Langmuir- Blodgett法によって80%を超える被覆率でGOを担持した基板に対して、レーザーアブレーション法によるGOのパターニングを行った。これによりGO-SiO2領域間を拡散するQdot標識脂質を効率的に検出し、解析数を高めることを試みている。この技術を利用して作製したモデル生体膜/GO系のアレイに膜タンパク質を埋め込むことで網羅的な機能解析法についても構想しており、その基礎技術としても重要である。これらのことから当初の計画以上に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
実験条件の改善によりGO上脂質二重膜の流動性を定量的に評価することができた。本年度は疎水部のアルキル鎖長の異なる脂質を用いることで膜厚を制御したSLBをGO上に形成し、GO領域におけるQdotの蛍光強度の変化から蛍光クエンチ効率の距離依存性について調査する。必要に応じて励起光路等の一分子蛍光強度計測のための装置および解析ソフトウェアの改良を行う。研究目的である詳細な分子挙動の測定においてQdotは直径10-20 nmで脂質二重膜の厚さ(~5 nm)よりも大きく、SLB内部での深さ方向の分子分布や膜の非対称性の認識のためには蛍光色素分子をプローブとして用いる必要がある。蛍光色素はQdotよりも量子効率が低いためGOからの距離を適切に制御する必要がある。そこでGO上にリンカー分子を介してSLBを形成する「繋ぎ留め型」SLBを作製することでGO-SLB間距離の制御を精密に行い、Qdotよりも汎用性の高い蛍光色素分子の蛍光強度計測ためのSLB/GO系を確立する。双極子間の共鳴エネルギー遷移によるものであれば、蛍光クエンチ効率は分子配向にも依存するため、蛍光一分子像のデフォーカスイメージング法を併用して分子配向情報も同時に取得する。計測手法の確立後、複数種類の脂質の混合SLBを用いて、相分離やドメイン形成に伴う膜厚変化を計測する。
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Research Products
(8 results)