2013 Fiscal Year Annual Research Report
ヘリコバクター・ピロリ菌CagAの病原/発がん生物活性を規定する分子構造基盤
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13J06186
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長瀬 里沙 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ピロリ菌 / CagA |
Research Abstract |
胃がんは世界部位別がん死亡数の第二位を占める。近年の大規模疫学調査ならびに動物モデルを用いた研究からピロリ菌cagA遺伝子陽性株感染と胃がんとの密接な関連が明らかとなり、胃がん発症機序への理解や胃がん治療への応用にCagAの生物活性発現における分子機構の解明が重要な意義を持つものと期待される。本研究ではCagAとその細胞内標的分子であるSHP2チロシンボスファターゼとの相互作用を構造生物学的ならびに速度論的側面から解析することを目的としている。 CagAはそのC末側領域に複数存在するEPIYAセグメント内のチロシン残基がリン酸化されることによりSHP2と結合する。そこで、様々な数のEPIYAセグメントを保有するCagA変異体を作製し、ヒト胃上皮由来AGS細胞に発現させて免疫沈降実験を行った。その結果、EPIYAセグメント数の増加に従いSHP2の共沈量が飛躍的に増加することが明らかとなった。 続いて、CagA-SHP2結合能を速度論的に解析した。まず、組換え型CagAのチロシンリン酸化とその精製を試みた。CagAとCagAのチロシンリン酸化酵素であるSrcキナーゼを大腸菌に共発現させ、菌体内でCagAをチロシンリン酸化させた。次に、アフィニティークロマトグラフィーによりCagAを精製した結果、CagAが高純度に精製されており、さらに精製後も高いレベルでチロシンリン酸化状態を保持していることが示された。次に、表面プラズモン共鳴法にて精製したチロシンリン酸化CagA変異体とSHP2との解離定数を測定した。結果、EPIYAセグメントの増加に伴いCagAとSHP2との結合親和性が飛躍的に高くなることが明らかとなった。 現在は当初予定していたNMRを用いた立体構造解析に先立ち、結晶構造解析を用いてCagA-SHP2複合体の三次元構造解析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はCagA-SHP2結合能の速度論的解析を予定していた。初めにCagAとSHP2との結合に必須であるCagAのチロシンリン酸化を試み、大腸菌体内でCagAをチロシンリン酸化させる新たな実験系を樹立した。さらに、チロシンリン酸化状態を維持したままCagAを高純度精製することに成功した。最後に、精製したチロシンリン酸化CagAと精製SHP2との結合親和性を測定し、CagAのSHP2結合部位数の増加に従いSHP2との結合親和性が増大することを明らかにした。以上の結果から、本年度の研究が順調に進展したと評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進方策としてまず、CagA-SHP2複合体の立体構造解析を予定している。現在、当初予定していたNMRによる立体構造解析に先立ち、当研究室で実績のある結晶構造解析を用いたCagA-SHP2複合体の立体構造解析を進めている。結晶構造解析が順調に進んだ場合、NMRを用いてCagA-SNP2複合体の動的立体構造解析を開始する。
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Research Products
(2 results)