2013 Fiscal Year Annual Research Report
視覚イメージの復元に基づく三葉虫類の適応放散様式の解明
Project/Area Number |
13J06231
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
大野 悟志 静岡大学, 創造科学技術大学院, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 三葉虫 / 複眼 / 視覚特性 / 節足動物 |
Research Abstract |
本研究は複眼視覚と行動の関係性に基いて, 絶滅動物三葉虫類の適応放散様式を解き明かすことを目的としている. 当該年度は, 複眼視覚特性の解明に必須となる試料の収集と計測機器の立ち上げに重点を置いて研究を遂行した. 個眼の測定に必須となる測定機器は, 光学顕微鏡と旋盤機器を基本とするシステムに, デジタル角度計や特注ステージを組み込むことで組み上げた. 本装置の完成により, 複眼表面に配列する個眼視軸の分布様式を特定し, 複眼が取得していた視覚情報を復元することが可能となった. 試料採集は8月12~29日の期間に, スウェーデンのダーラナ, 及びゴットランド島にて行い, 研究対象種の4種 : Remo-pleurides dalecarlicus, Eobronteus laticauda, Stenopareia oviformis, Encrinurus punctatusを主とする計7種の三葉虫複眼を採集した. 複眼形態の大きく異なる4種を採集したことで, 三葉虫類の視覚パターンを網羅的に捉えることが可能となった. 当該年度は, 上記の中から3種の三葉虫種の複眼について測定した. その中で, 遊泳性三葉虫R. dalecarlicusでは, 視野内に分布する高解像度領域を明らかにし, この領域が遊泳時の姿勢の感知を行うジャイロ機構と同様の働きをすると結論付けた. 本成果は, 6月の日本古生物学会年会で優秀ポスター賞を受賞した. 定住性三葉虫S. oviformisでは, 全個眼視軸の分布様式を明らかにすることで, 視野内解像度の分布様式を明らかにした. 本種の視野水平斜め前方領域にスポット状の高解像度領域は, 群れで定住生活を行う本種において, 同種の形態やサイズの認識に優れる領域であることが示唆された. 現生節足動物の複眼視覚特性と比較検討が可能となる高精度な情報を得た当該年度の研究成果は, 化石生物の生命活動の理解を深めるといった古生物学の究極的目標に切り込んでいける素地を築いた重要な成果である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
曲該年度は複眼視冤特性の解明に必須となる試科の収集と計測機器の立ち上げを予定していた. 試料収集は, 対象とする種の産出状況を予め把握していたため、計画通りに多数の良質な試料を揃えることができた. 計測機器の立ち上げでは, 異なる器具同士の位置合わせや組み合わせに, 度々調整を要したために完成が予定より遅れてしまった. 計測手法の確立も, 予定外の予備作業が必要となるなど若干難航したが, 当該年度中に完了した. したがって, 研究計画は順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は, 採集した複眼のデータ計測と論文執筆を重点に置き研究を遂行する. 初年度に立ち上げた視軸測定器と, 収集した試料を用いて各三葉虫複眼の視軸分布様式データを蓄積し, 各種が備えていた視覚特性を解明する. まずは, 初年度に全個眼の視軸計測が完了し, 論文を執筆中であるStenopareia oviformisの研究成果を国際誌へ投稿する. その後, 同所的に産出し, 外骨格形態の対照的な三葉虫Eobronteus laticaudaの視軸分布様式を解明し, S. oviformisと比較検討することで, 同環境における形態と行動様式の分化について議論する予定である. 複眼の形態が大きく異なることで, 視軸測定装置の微調整が必要となる問題については, 初年度と同様に専用ステージを設計し, 業者に特注することで解決を試みる.
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Research Products
(4 results)