2013 Fiscal Year Annual Research Report
モリエール作品における「理屈家」-その劇的機能と喜劇性の変容との関係
Project/Area Number |
13J06267
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
久保田 麻里 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | フランス文学 / 十七世紀 / 近代喜劇 / 古典主義 / バロック / モリエール / 理屈家 |
Research Abstract |
古典主義演劇の創作理論は、三単一の規則に代表される厳しい制約を劇作家に課している。限られた時間と空間の中で、登場人物を限界まで減らし、筋の展開を極限まで切り詰め、しかも言葉の力だけで何もかもを生み出さねばならないのである。ところが性格喜劇の変遷を辿ると(久保田麻里、「モリエール喜劇における理性の変化―狂気をめぐる登場人物の動きについての考察」、『仏文研究』、京都大学フランス語学フランス文学研究会、第44号、pp. 129-144、2013年)、筋の展開は、広がりを増すという正反対の方向に変化している。内容の面でも、お決まりの大団円が用意されてはいるが、筋の中心である狂気を裁く結末から助長する結末へ変化したことは、その結末が時にスペクタクルの力に大いに依存しているということも手伝って、「真実らしさ」や「ビアンセアンス」の減少を招いているように思われる。モリエールの後期の演劇活動を特徴づけているコメディ=バレエ作品の作劇法の変遷を辿ると、モリエールは「コメディ」と「バレエ」の双方向から近付け重なり合わせるようにして、コメディ=バレエという融合体を作っていることが確認できる。モリエールにおいては言説という恒常的なものが視覚という一時的なものに勝るという、これまで大勢を占めてきた説とは違い、作劇における扱いでは「コメディ」と「バレエ」、言い換えれば文字とスペクタクルは等価であると確認した。並行して、近年、十七世紀文学に果たした女性の役割が再検証されていることを踏まえ、単に一人の劇作家の女性観を探ろうというのではなく、当時の女性を取り巻く社会的・文化的状況が作劇に与えた影響を探った。男女の別なく街学や極端な理想主義を椰楡し、恋の本能を称揚するという態度は、言説とスペクタクルに対するものと同様、モリエールにおいては、いかなるものも平等に喜劇のテーマとなりうることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究実施計画では、モリエールの作品全体を視野に入れながらも、演劇活動の初期こ特に注目する予定だったが、活動後期を特徴づけるコメディ=バレエ作品の分析を先に行った。とはいえ、モリエールの劇作品全体の理解という目的のためには、むしろ変更後の順序が適していた。よって手段は多少変化したものの、おおむね順調に目的達成に向かっている。
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Strategy for Future Research Activity |
「理屈家」という存在は、「理性」や「自然」を標榜する古典主義と結び付けて考察されがちだが、その劇甲の働きを見れば、明らかに古典主義の創作理論からは逸脱した存在である。モリエールが言説という恒常的なものと視覚という一時的なもの、言い換えれば古典主義とバロックの精神の両方を作品に注いでいたということを踏まえ、十七世紀における二大文学潮流が、いかにモリエールの中で融合していったかを検証し、その融合と「理屈家」のあり方との関連を考察する。
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