2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13J06362
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
浅野 康司 大阪大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 金融危機 / 所得格差 / 金融機関 |
Research Abstract |
今年度の研究は、金融危機と所得格差の関係を考える上で金融機関が重要な役割を果たすことを示した論文「Bank Reputation, Risk Taking, and Bank Runs」にまとめられている。金融機関は金融危機の発端となるとともに、企業の倒産および失業を引き起こして所得格差に影響を及ぼすことになるため、分析上欠かすことができないものである。私の研究では、以下の2点の含意を導いた。 1点目は、金融市場の発展によって銀行家の支払い能力が上昇する状況を分析した。このとき、預金者は銀行家の投資の失敗には比較的寛容になるため、銀行家は失敗を恐れなくなる。その結果、多くの企業に貸出をしてリスクを分散させるよりも、少数の企業に集中させるという危険な戦略をとるので、企業間の格差を拡大させてしまう。銀行のリスクテイクは金融危機の発生確率を高めるので、金融市場の発展によって金融危機の発生確率の高まりと同時に所得格差の拡大が起こることが示唆される。 2点目は、預金市場での競争によっても銀行の貸出数を減らす効果があることを示した。預金市場が競争的になるほど銀行の利益は小さくなるので、銀行は将来経営を続けるインセンティブが減ってしまう。そのため、銀行はリスクをとりたがり、複数ある貸出先を一部の企業に絞り込む行動をとる。金融危機によって預金者は銀行の評判をより気にするようになるので、銀行間の預金者の奪い合いが激しくなり、その影響は銀行の貸出先の減少をもたらす。つまり、金融危機は金融機関を通じて所得格差を拡大させることになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
金融危機が所得格差を拡大させるメカニズムをモデル化すると、個人間の所得の違いや能力の違いなどの異質性を考えなければならず複雑になりすぎてしまうと予想していた。しかし、金融機関の行動に焦点を当てることで同質な個人でも所得格差が生じるメカニズムが明らかになったため、非常に簡明なモデルで描写することができるようになった。その結果、理論的な計算や具体的な数値計算も比較的容易に行えるようになったので、計画は予想よりも進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の課題としては、簡単さを失わずより現実を反映させたモデルの構築である。理論的には金融機関が金融危機と所得格差に重要な役割を果たしていることが明らかになったが、金融機関の影響の大きさを定量的に把握するためにはさらなる研究が必要である。そのために、今後は現実のデータを詳細に観察し、金融機関の貸出や預金者の銀行の選択などの行動を把握することで、金融機関の影響をより詳細にモデル化する予定である。また、当初の計画通り、Asian Meeting of the Econometric Societyなどの国際学会で報告し、多くの実務家や専門家からのアドバイスを仰いだ上で、論文をさらに洗練させるつもりである。
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