2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13J06362
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
浅野 康司 大阪大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 金融危機 / 所得格差 / コーポレート・ガバナンス |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究は、金融危機と所得格差の関係を考える上で企業のガバナンスが主要な役割を果たすことを示した。この研究成果は、「Managerial Reputation and Failure of Market Discipline」にまとめられている。 2007年に起こった世界金融危機は、多くの企業の倒産やそれに伴う失業をもたらし、労働者間の所得格差を拡大させた。この危機の背後には、企業による過剰なリスクテイクがあったと考えられている。そこで、私の研究では、なぜ企業が無謀な投資を行ったのか、企業のガバナンスはなぜうまく働かなかったのか、という問いを投げかけた。投資家は無茶な投資をするところには資金を融資したくないので、企業が投資家を惹きつけるためには、健全な投資を行い、企業の評判をあげる必要がある。このような市場による規律付けがうまく機能しなかったことに対して、この論文では、高度な金融商品の発達および規制緩和という、近年の金融市場の変化が原因であると主張している。 これらの結果は、企業をとりまく環境が近年大きく変化したことにより、企業のガバナンスの低下を導いたことを示唆している。私の研究では、企業のガバナンスを考える際には、企業内部の組織構造だけでなく、よりマクロ的な視点からも考える必要があることが含意として導かれた。 この研究は、2回国際学会で研究報告を行っており、多くの国の研究者から有益なアドバイスを頂戴することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
金融危機が所得格差を拡大させるメカニズムをモデル化する際に、現実との整合性がとれたモデルを構築できるかどうかが難しいと予想していた。しかし、企業行動に着目することで、実証結果と整合的な理論結果を導くことができた。また、個人間ではなく企業間での労働者の所得格差に注目したため、モデルを非常に簡単化でき、分析が個人単位よりも一層容易になった。その結果、理論的なインプリケーションの導出や具体的な数値計算を容易に行えるようになったので、計画は予想よりも進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の課題としては、より現実を説明できる理論モデルの構築、およびそのモデルの検証である。理論的には企業のガバナンスが金融危機と所得格差にを理解する1つの要因であることが明らかになった。しかし、そのメカニズムが実際にどれほど影響をもっているのか、定量的な分析はいまだ十分ではない。そのために、今後は現実のデータを用いて、企業のガバナンスのあり方や投資戦略を把握することで、企業のガバナンスの影響を詳細に分析する予定である。また、この研究をまとめあげた上、国内学会や国際学会で報告し、多くの実務家や専門家からのアドバイスを仰いぎたい。その上で、論文を洗練させる。
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