2013 Fiscal Year Annual Research Report
ポスト近代社会における中間集団としての宗族組織の社会人類学的研究
Project/Area Number |
13J06576
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小林 宏至 東北大学, 東北アジア研究センター, 特別研究員(PD)
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Keywords | 宗族 / リニージ / 親族 / 客家 / 呼称 / 親族名称 / 分節形成 |
Research Abstract |
2013年度は、大きく分けて二つの調査、研究活動を行った。 1. 「宗族の親族関係および呼称に関する研究」に関して。これまでの宗族研究は、宗族の生成過程を、春節の儀礼、清明節の墓参、族譜の編纂、墳墓の建設、葬儀などといった大がかりな祭祀やイベントを契機として議論することが多かった。しかし本研究課題では、フィールド調査における日常会話のなかから宗族の「作られ方」を考察した。調査者が特に注目したのは、彼らの相互の名前の呼びかけである。ここで言う名前は親族名称(kiniship term)ではなく、各人の呼称(Address)を指す。これによって大がかりな装置を必要とせず、彼らのなかでどのように宗族(あるいは宗族的な関係性)が構築されているかを考察した。これによって得られた知見から、宗族組織が国家や近代的な装置のなかでどのような機能を果たしているかを考察する手がかりを得た。 2. 「宗族の発展プロセスに関する研究」に関して。中国の父系出自集団である宗族は、これまで主にリニージとしてその特徴が議論されてきた。その背景には、これまで人類学者が親族を議論する際に、西洋的な価値観から親族というものを前提に議論を始める傾向が強かった。中国社会におけるリニージ研究は、アフリカの父系出自社会研究の影響を大きく受け、父系出自集団の発展は、長らく宗族組織の分裂によるものと考えられてきた。しかし調査者は実地調査から、宗族の発展プロセスをより詳細に分析し、宗族の発展過程をより微細にみれば、その初期の段階は「分裂」というよりも「複製」というような状況が出現しているということを発見した。つまり、宗族組織は、不均衡に発展した分節が分裂することで、新たな宗族を誕生させるのではなく、ある程度均衡を保った各分節から人員を排出することで新たな宗族を誕生させることを指摘した。これは宗族の社会的機能を議論する上で非常に重要な意義をもつ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた調査日程通り、長期現地に滞在する形での実地調査を行うことができなかったが、年度内に4回にわたって現地を訪れ、現地と良好な関係性を築くとともに、調査データの充実に努めることができた。また、現在進行中の研究内容を、所属研究機関および受入研究員の科研費の研究グループ、日本文化人類学会、The Asian Studies Association of Hong Kongなどで発表し、多くのフィードバックを得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度は、研究課題のうち特に重要な2点、1)「宗族の親族関係および呼称に関する研究」、2)「宗族の発展プロセスに関する研究」を重点的に調査した。その研究成果は、各研究会にて発表することで、多くの有益な視座、指摘を受けることができた。2014年度の前半は、これらの成果をまとめて研究論文として提示することを目指す。1)は現在の所属機関である東北大学の研究プロジェクトの一環として出版し、2)に関しては雑誌文化人類学に投稿するなどし、成果を世に問うていく。2014年度後半は、本研究課題をより対話可能な議論にするために、華僑華人学会やアメリカ人類学会などで発表していく予定である。本研究の議論を、専門や地域で閉じてしまうのではなく、より学際的な方向へ、そして調査地の了解を得ながら現地へ還元できる形で進めて行く。
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Research Products
(8 results)