2014 Fiscal Year Annual Research Report
ポスト近代社会における中間集団としての宗族組織の社会人類学的研究
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13J06576
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小林 宏至 東北大学, 東北アジア研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 民族誌 / フィールドワーク / アクチュアリティ / 宗族 / 客家 / 土楼 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)主要な調査および資料収集 ①3年に1度開催される、湖坑鎮六連村の祭祀活動に参加し、保生大帝信仰の成り立ちと、村落間関係を明らかにするため2014年11月調査地を訪れた。11月25日から行われた保生大帝の大祭では、現地社会の人々と総距離300キロの行程を共にし、保生大帝が運ばれてきたルートを確認することができた。保生大帝は、調査地から150キロほど離れた海岸部にあった人形を調査地の人々が盗難したという物語がある。その詳細を聴く中で当時、調査地の人々が100年前から現在の同安地区と積極的な交流を持っていたこと、文化大革命期に信仰活動が中止されたことなどが明らかとなった。また同祭祀には父系出自集団を超えた複数の村落が連携していることも明らかとなった。②福建省龍岩市永定県の図書館を訪問し、同館に収蔵されている地方史、公開されている行政資料、族譜などの資料を閲覧し、必要に応じてコピーをとった。 2)主要な成果発表 ①日本文化人類学会の分科会「宗族研究展望:古典的研究対象の現在を再考する」で現代社会における宗族研究の意義を隣接地域の研究者から多角的に議論し、より広い視野で研究対象を考察する機会を得た。②ワシントンD.C.で開催されたアメリカ人類学会の年会に参加した。「Etiology from the Hometowns: A “Typical” Case Study of Feng Shui Practice」というタイトルでポスター発表を行った。 3)現地社会への貢献 ①2012年に完成した作品、映画『土楼の客―環極楼のスケッチ―』制作・監督・編集:大久保耿介、監修:小林宏至、日本 カラー作品、90分、16:9(2012年度、文部科学省選定映画)を現地にて上映し、DVD化したものを手渡した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全体的な研究の進捗状況を見る限り、研究課題は着実に進められているといえる。研究課題「ポスト近代社会における中間集団としての宗族組織の社会人類学的研究」において本年度は特に、昨年度までの研究成果の発表と、変化し続ける現地社会の状況を記録してきた。そのなかで、調査者は研究課題をより慎重に進めるためにサーチクエッションの再考を行った。なぜならば調査地における先行研究である客家、土楼および漢族に対する批判的再検討を行うことは、結局のところ先行研究の系譜の再生産に過ぎないためである。 そのため2014年度は調査・研究をすすめるとともに、先行研究の整理だけでなく、研究視座の批判的再検討を行った。社会・文化人類学の領域においては、1980年代の『文化を書く』問題以降、調査、研究内容に対してさまざまな「転回」が行われてきた。それらは人文社会科学におけるポストコロニアル的転回、言語論的転回、物質文化的転回(マテリアリズム)、生態学的転回(アフォーダンス論)などと根を同じくするものであるが、これは総じて近代的な人間中心主義から「問い」を発することの限界点を示すものである。先行研究を整理しつつも、新たな「問い」を設定し、研究を一過性のものではなく、より汎用性をもった議論にする必要性を、これまでの成果発表とフィードバックのなかで得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、民族誌的研究をすすめるなかで、客家、土楼、宗族といったものを人間中心的な視点からの「問い」ではなく、テクストとしての客家、モノとしての土楼建築、音声から生み出される宗族、として調査・研究することの可能性を検討している。これらの研究をすすめるなかで人間の理性や「客観的」事実を拠り所とした近代社会的分析軸の限界を示し、彼らが生きる世界を、知覚に基づく「普遍的」な指標であるリアリティ(reality)の次元だけではなく、各人の生きるための行為性に基づくアクチュアリティ(actuality)の次元を加えてとらえなおし、現地社会において「生き生きとした現実」が生み出される人とモノ(あるいは音声や何らかの対象物)との関係を描きだすことを進めている。
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Research Products
(9 results)