2014 Fiscal Year Annual Research Report
18~19世紀パリにおける小売業の展開と服飾関連業
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13J06577
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
角田 奈歩 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 小売業 / ファッション産業 / パリ / 都市史 / 注文服・古着・既製服 / データベース / 国際情報交換 / フランス |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度初,経済史研究者3人と共に「糸・布・衣の循環史研究会」を発足。大きな流れとしては,当研究会による活動が主なものとなった。世界史的視点から「糸・布・衣」の生産,流通,消費,所有,使用,再利用についての統合的考察を目指すもので,日米独仏共同研究拠点形成計画Global History Collaborative(国内拠点:東京大学東洋文化研究所,国内主催者・同羽田正教授,国内資金源:日本学術振興会研究拠点形成事業・新しい世界史─グローバル・ヒストリー共同研究拠点の形成)のサブ・プロジェクトである。当研究会は内外の諸分野研究者と共にワークショップやシンポジウムを開催する他,繊維製品製造・流通史,特に生地名称を巡るデータ共有を目指す。角田がこれまでに作成した帳簿データも共有データベースに一部反映を始めている。7月26日に第1回研究会「ロシア更紗とアジア商人」(於和光大学ポプリホール鶴川)を開催,19世紀ロシア綿織物業に関する基調報告に対して,中央アジア市場に対するロシアの更紗デザイン開発イニシアティヴなどに関するコメントを行った。10月25日には第2回研究会「個人とファッションのはざま:現代ムスリム女性のヴェール着用」(於東京大学)を開催,口頭発表を行う。他,生地・衣服関係の製造・流通史などに関する勉強会を月1回程度開いている。 2015年1月には地理学研究者からGISデータの作成方法について技術指導を受けた。 2015年2月に渡欧,パリ市内の文書館で史料収集,近郊の更紗博物館等を見学する他,英国・カーディフ及びリーズ,ドイツ・ベルリン及びライプツィヒでガラス屋根付き商業施設や類似の19世紀建造の商業施設のフィールド・ワークを行った。またパリでは,現地の商業史研究者と面会,18~19世紀パリの小売業研究について情報交換とデータ共有の計画を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に予定していたが遅れていた1840年までの商業年鑑データ作成は完了した。19世紀後半に結びつけるため,加えて1850年分も作成することとしたが,これはさらに膨大な量となるためまだ途中である。しかしこのデータベースについては,研究計画を上回る成果達成の足掛かりを得た。1. 上記,フランスの研究者が作成した18世紀データとの連結による統合的データベース化,2. GISを利用した地図データとのリンク,の2点である。 パリ史料調査では19世紀前半のタンプル古着市場関係の情報が得られたが,一方で,19世紀以降のパリ衣服製造・流通業を巡る商業文書,特に帳簿類はまとまった形では現存しないことも判明した。 成果公表については,「糸・布・衣の循環史研究会」での活動から,グローバルな生地・服飾品製造・流通業の展開の中でパリ,あるいはフランスのそれの存在意義を捉え直す必要を感じ,グローバルなファッション産業史を巡る論考を2014年10月に公表,また生地・アパレル産業の歴史におけるフランスの存在意義についての論考を2015年5月に公表予定である。なお,19世紀初頭のモード商の帳簿に基づく論文は初年度中にすでに書籍掲載論文として執筆済みだが,出版社の事情により出版が遅れている。また,口頭発表では,史料状況の限界もあり,詳細な事実よりも長期的スパンでの構造理解を示すことを旨とした。 以上から,研究計画と比較した上での遅れがあったり,史料的制約により計画通りに進められない部分があることが明らかになったりもしたが,計画時には認識が乏しかった古着の重要性への認識と調査,またグローバルな視点の導入などを総合して考え,全体としては順調と見なす。
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Strategy for Future Research Activity |
19世紀以降の商業文書の所蔵状況から来る史料的制約により,19世紀前半については,数種類の断片的な史料を利用しつつ,商業年鑑データとフィールド・ワークの成果を主な素材とし,さしあたりは都市史に傾けて考察することにせざるを得ない。そのため,服飾品関係業に限らず,より総合的な19世紀前半パリの商業的トポグラフィを描き,オスマンによる都市改造が始まる1850年代前までの状況を明らかにする。 さらに,フランスやパリに留まらず,19世紀~20世紀前半の世界各地の衣服製造・流通業を注文服・古着・既製服という軸から考えることや,近世~現代パリのファッション産業のあり方をファッション伝達構造の一例あるいは一部分を占めるものとして考察するというよりグローバルな考察も,先に繋がるものとして展開させていく。 また現在,執筆済みではあるが出版社預けになっている原稿や,データ化は進んでいるが成果公表をしていないものを形にして発表する。データそのものの公開については,一部は国内・海外研究者,また別の一部は海外研究者との協働が決まったため,先方の都合により年度内には不可能な可能性もあるが,可能なところまで実現を進める。
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Research Products
(5 results)