2013 Fiscal Year Annual Research Report
アジアのライフサイエンスにおける科学、産業、政策の科学人類学的研究
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13J06678
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
瀬戸山 潤 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 科学政策 / バイオテクノロジー産業 / 台湾 / 科学人類学 / 民族誌 / 科学技術社会論 |
Research Abstract |
本研究課題の主要な特徴の一つに、ラトゥール以降の科学人類学の手法の利用がある。本年度の研究は、ミクロな観察・記述法である科学人類学的手法を、実験室だけではなく、よりダイナミックなプロセスに対してどのように適用することができるのかを明らかにした。特に科学政策の研究に当たっては、クノールセティナによる認識文化論やレイヴ、福島らの身体構築の観点を取り入れることが有用である。この手法を用いることで、本論の目標とする科学社会学、政策論的研究によるマクロな文脈の研究と、本研究による科学人類学的研究を接合する役割を十分に果たすものと期待している。 理論的研究と併行して、台湾という対象地域の持つ固有の文脈についても調査を行った。結果として、(1)台湾地域の科学政策は、日本における科学政策とはその位置づけが異なっていること、(2)大陸との政治的な関係が政策形成に強く影響すること、(3)国土開発と国家産業育成を科学政策が担っているということの三点が明らかにされた。 日本における科学政策、特にゲノム科学政策は、いわゆる「ゲノム敗北」の国際的雪辱のため、基礎研究への投資を中心に進められてきた。科学先進国として、果たすべき国際貢献が念頭に置かれることもしばしばである(タンパク 3000など)。一方の台湾では、科学政策は「創新(イノベーション)」政策という位置づけを持っている。これは現在の国内の集積回路産業を実現した新竹のサイエンスパークにおける成功をその背景としている。強力な科学産業によって、島内の経済力を強めることが、大陸に対する外交カードとして重要性をもつのである。それゆえ、次世代の産業拠点の開発をも一体化させた、日本とは異なる形態の科学政策が実施されているのである。 このマクロな文脈を、次年度以降ミクロな観察と接合することを試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に予定されていた、理論的研究と台湾ローカルな文脈の調査については、概ね当初の目標を達したため。
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Strategy for Future Research Activity |
現在の課題は、台湾における科学政策の形成に寄与する因子の特定にある。直接これを明らかにすることは本研究の目標には数えられないが、今後の研究の効率を向上させるためには、台湾の一般的な政策形成プロセスについて深い理解を得る必要がある。まずは現地研究者による報告をあたり、必要があれば現地研究者の協力を仰ぐことを考えている。 また、現在、具体的な調査対象とする研究室の選定に難航している。年度末には台湾の政情が不安定であり、現地研究者との交渉を持つことが難しかった。まずは協力関係を維持し、政情を見て確実に現地協力研究者との交渉を持てるようにことを運ぶ。
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