2014 Fiscal Year Annual Research Report
グローバルな正義論と人権構想-道徳的考慮の基礎と負担原理の探求-
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13J06783
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
木山 幸輔 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 人権 / グローバル正義論 / ロールズ / 援助政策 / 規範理論と援助構想 / ランダム化比較試験 / リバタリアン・パターナリズム / 人権と干渉 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、世界的貧困への道徳的義務を、特に人権概念に焦点を当てつつ探究するものであるが、本年度には以下のような成果を得た。 第1に、人権の機能および正当化に関する研究が公表された。これは5月における政治思想学会報告に代表され、そこでは人権の機能を主権制約(干渉)と結びつける近年の学説およびロールズ『諸人民の法』における人権の正当化が批判的に吟味され、さらに自然法アプローチの可能性の計測がなされた(提出原稿は約39000字)。 第2に、世界的貧困と道徳的義務の関係について、P・シンガーの援助原理とI・M・ヤングの責任の社会的連関モデルを批判する形で考察が進められた。その成果は、貧困が生じる世界の関係を確かめつつ、人権の侵害に至る因果を追うことの重要性を主張する査読つき書評論文として『相関社会科学』に掲載された(約8300語)。 第3に、人権を含むグローバルな正義の世界的貧困への規範的要請と、実際の援助構想の関係について研究を行った。まず、近年世銀やJICAでも影響力をもつランダム化比較試験(RCT)とリバタリアン・パターナリズムの複合から援助プログラムを構想する援助構想に対して、政治理論的な考察を行ない、論文を執筆した(約20000字)。同論文は、開発経済学・人類学・政治哲学の知見を用いつつ、同援助構想の政治的意味を明らかにしようとしたものであり、『年報政治学』の特集論文「政治理論と実証研究の対話」の一稿として刊行が決定した。 第4に、2015年以降、ミレニアム開発目標(MDGs)に代わる開発目標となると目される持続的開発目標(SDGs)についての分析を開始した。特に、その策定プロセスの政治学的分析と、思想的背景となっているサルコジ委員会の参加者たち(A・センやJ・スティグリッツら)の議論の分析を開始した。この成果は2015年内に査読つき雑誌に投稿される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、予定していた政治思想学会での報告、CTやリバタリアン・パターナリズムに基づく援助構想を評価する論文の公表確定に加え、世界的貧困と道徳的義務の関係についての書評論文の公表という成果を得、当初の予定以上に研究成果の公表ができた。さらに上記の政治思想学会での報告をこれまでの人権の正当化の研究と関連づける形で修正・英訳し、英語論文として完成させることが出来た。以上から本研究は予定以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
以上を踏まえ、平成27年度は以下のような予定で研究を行いたい。1春季には2015年以降貧困への援助構想の基底となるSDGsに関する規範理論的考察を行なう。2夏季には先述の英語論文に関し、フィードバックを得た上で修正・投稿等を行なう。3夏―秋季にはロールズやハーバーマスの議論の検討を行い、グローバルな自然本性的義務の正当化の理論、あるいはハーバーマシアン人権理論の検討を行い、人権の哲学の精緻化に努める。4秋―冬期には、英国へ渡航のうえで、そこで所論の検討の機会を得たい。年度を通じて、以上すべての成果および平成25、26年度の成果をもとに、博士論文へとまとめる作業を行いたい。
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Research Products
(3 results)