2013 Fiscal Year Annual Research Report
取引費用理論の定式化と企業の境界における事前・事後アプローチの結合
Project/Area Number |
13J06819
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森 祐介 東京大学, 社会科学研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | 企業の境界 / propertyrights theory / incentive-system theory / adaptation theory / ホールドアップ問題 |
Research Abstract |
平成25年度における主要な研究成果は、複数存在する企業の境界問題(企業の中間投入財調達を外注に頼るべきか、内製すべきかの選択問題)へのアプローチを統合する基礎的な理論モデルを完成させたことにある。 25年度における研究で樽築した理論モデルはproperty-rights theory(以下、PRT)、incentive-system theory(以下、IST)、adaptation theory(以下、AT)の3つのアプローチにまたがる含意を持つ。本研究ではPRTが提示するホールドアップ問題(事前の過小投資問題)のモデルに、取引環境の変化に対する事後適応問題(ATのメイントピック)を導入し、事前投資・事後適応を効率的に実現する上で最適な資産所有構造を分析する。本研究で示されるのは、PRTの広く知られた主張「重要な投資を行う主体に資産を所有させるべき」は事後適応を考慮に入れると必ずしも成り立たないということである。つまり、投資主体による資産所有は事前投資を促す一方、効率的な事後適応(事後的に生じうる、より効率的な投資機会への投資)を阻害しうる。この結果は資産所有が投資主体の事前・事後投資インセンティブのどちらにより大きく影響するかに依存して、資産所有構造を決定すべきであることを示しており、ISTで語られるマルチタスク問題(限界効用の異なる複数タスクについてのインセンティブ設計)の議論に通じている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
25年度の研究成果は、本研究課題の2つのテーマである、「取引費用理論の定式化」(ATは取引費用理論を構成する議論の1つである)と「複数存在する企業の境界問題へのアプローチの結合」の双方についての研究の前進を示すものであり、当初の25年度研究目標(取引費用理論の基礎モデル構築)を上回る成果と言える。加えて、当該成果についてのワーキングペーパー作成、各種国際学会への発表申し込みといった次年度以降の発信活動の準備も順次進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、25年度の研究成果を深化させる。具体的には、学会報告に代表される発信活動を行い、他の研究者からフィードバックを受けつつ改訂作業を行う(現時点でInternational Society for New lnstitutional Economics2014での報告は受理されている)。第二に、より包括的な企業の境界の理論モデルの構築を試みる。企業の境界問題への主要アプローチには先にあげたPRT、IST、AT以外にも、rent-seeking theory(以下、RST)が存在する。RSTは報告者が特別研究員採用以前から取り組んでいる研究テーマであり、今後はRSTについての研究と25年度の研究成果(PRT、IST、ATについての研究)との統合を模索する。
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Research Products
(2 results)