2013 Fiscal Year Annual Research Report
運動と位置に関する知覚現象を通じた脳内の視覚空間表現の解明
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13J06830
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Research Institution | NTT Communication Science Laboratories |
Principal Investigator |
久方 瑠美 (吹上 瑠美) NTTコミュニケーション科学基礎研究所, 人間情報研究部, 特別研究員PD
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Keywords | 空間知覚 / 運動視 / 錯視 / コントラスト感度 / 色運動 |
Research Abstract |
本年度は、運動による位置ずれ錯視に関与すると考えられる「運動によるコントラスト感度変調」について実験を執り行った。運動によるコントラスト感度変調は、運動刺激が周辺の刺激のコントラスト感度に影響を与える現象で、運動刺激の運動方向依存性がある(Roant et al., 2011)。すなわち、運動方向側に位置する周辺刺激においてのみ、運動刺激とターゲット刺激の位相依存的な変調が認められる。Roach et al. (2011)は、運動方向側には閾値下の運動信号が存在しているのだとした。この説が正しいとすれば、閾値下の運動刺激が刺激の位置推定に影響を与え、それが位置ずれ錯視の原因となっていると考えられる。もし、位置ずれ錯視の原因がこの閾値下の運動刺激だとするならば、位置ずれ現象が起こるさまざまな運動でこのコントラスト感度変調も発生するだろう。この仮説のもと、運動による位置ずれ錯視を引き起こすと知られている色運動でも「運動によるコントラスト感度変調」が起こるのかどうか実験をした。その結果、輝度信号を含まない色運動では、先行研究で示されたような位相依存的なコントラスト感度変調は起こらないことが明らかになった。このことは、運動によるコントラスト感度変調は運動による位置ずれ錯視の直接的な原因とは考えにくいことを示唆している。 さらに、運動による位置ずれ錯視に関して、運動方向バイアスが存在することを発見した。Linares & Holcombe (2008)では視野中心に向かう運動よりも視野周辺へ拡散していくような運動の方が多く位置ずれを引き起こすことを報告している。われわれの実験では、従来位置ずれ実験で用いられてきたエッジがぼけているガボールパッチ刺激ではなく、ハードエッジをもつ正弦波刺激を用いた。すると、右視野に刺激を呈示した場合は左運動の方が、左視野に刺激を呈示した場合は右運動の方が位置ずれ量が多くなることを発見した。これは先行研究とは逆の傾向であった。さらに、位置ずれ量を測定するために置くプローブ刺激を、白い円刺激から位置が推定しやすいバー刺激に置き換えたところこのバイアスが変化することがわかった。このことから、刺激間の傾きである2次あるいは3次の傾き検出機構がこのバイアスに関与していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り初年度は心理物理実験を行った。この実験の結果から、当初「運動と位置ずれ錯視」関係すると考えていた現象と位置ずれ錯視に現象的な齟齬がみられた。さらに、この錯視に関与する新たな現象も発見した。
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Strategy for Future Research Activity |
「運動によるコントラスト感度変調」が位置ずれ現象の直接的な原因ではないことが示唆された。この結果をふまえて、より詳細に視覚系の運動と位置の知覚処理に関する心理物理実験を行っていく。
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Research Products
(3 results)