2013 Fiscal Year Annual Research Report
学習と探究を通じた自己集団アイデンティティ形成:ブエノスアイレスのユダヤ人を例に
Project/Area Number |
13J06866
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宇田川 彩 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 国際研究者交流 / 文化人類学 / アルゼンチン : アメリカ合衆国 / ユダヤ学 / 宗教 / テクスト / アイデンティティ |
Research Abstract |
特に以下の二点につき、口頭発表を中心としながら分析を行った。 【探求とアイデンティティ形成について】前年度までに現地調査を行ったアルゼンチン・ブエノスアイレスの宗教団体を主な対象とし、文化人類学的な考察を行った。当団体はラビ(ユダヤ教指導者)が率いる小規模宗教グループで、安息日の礼拝、ユダヤ神秘主義のクラス、アルゼンチン内陸で行われるリトリーと(精神修養合宿)が主な活動である。約30―40人のメンバーの内、ユダヤ人は半数にとどまる。当団体においては、ユダヤ教の重要な伝統である「テクストの継承」が新たな表現の形式をともなって行われていること、及び、アルゼンチンの宗教社会人類学を中心とした文献調査にもとづき、ブエノスアイレスの精神探究の文化の一部に位置づけられることを考察した。 【ユダヤ暦と自己アイデンティティ・家族史とのかかわり】 ユダヤ暦の祭事の中で特に過ぎ越しの祭りに注目すると、奴隷の身であったユダヤ人のエジプトからの解放・自由を記念するこの祭りは、家庭での晩餐において、テクストを読みながら食事が勧められる家庭における宗教文化行事であるという特徴がある。ハガダー(テクスト)、ユダヤ料理、シンボル(奴隷となったユダヤの民のシンボルである苦菜など、六種の食物が食卓に盛られる)が、家族史の中で繰り返されていくことの重要性とともに、なぜ今、私たちが「自由」を記念することが重要なのかという問いかけの契機でもあることを考察した。 以上の二点は、長期現地調査に基づくオリジナルのデータであり、日本におけるラテンアメリカ研究が先住民文化や政治経済に関する研究を中心として発展してきたこともふまえると、当該地域に重要な影響を及ぼした移民文化についての新たな視点をもたらす研究でもあることを加えておきたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ユダヤ暦とユダヤ教テクストの使用という二項目について重点的に考察・分析を行い、主に学会等での口頭発表の形で成果発表を行った。前年度までに行ったアルゼンチンでの現地調査についてデータの整理が進んだ上、上記発表の機会においては聴衆の講評を受けた新たな視点や分析枠組みを得ることができた。これらの成果は、イ年度以降も博士論文執筆の完了に向けて継続される。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在査読中である論文(早稲田人類学学会誌)においては、今年度引き続き訂正・最終稿の提出を目指す。 調査データ分析の続行。テーマとしては、保守派シナゴーグにおけるトーラー(聖書モーセ五書)のクラスでの調査に関する考察を新たに行う。また、公の研究会での発表のほか、博士論文の執筆状況については、昨年度日草木されたデータの分析・考察を行い、今年度はより重点的に行うこととする。
|
Research Products
(5 results)