2014 Fiscal Year Annual Research Report
歴史思想と心性論を手掛かりとした院政期思想史の全体的研究
Project/Area Number |
13J06929
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
森 新之介 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 法然房源空 / 道心 / 菩提心 / 『選択集』 / 顕密体制論 / 思想史研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究成果を査読付き論文2本、同研究ノート1本、そして査読なし研究ノート1本として公表した。 まず論文「法然房源空の道心論」では、浄土宗の法然が如何なる道心論を有していたかについて検討した。従来、法然が捨てた菩提心とは道心のことだと考えられてきたため、法然の道心論は殆んど顧みられていなかった。しかし、法然は道心と菩提心を使い分けており、厭離生死の心たる道心は法然の思想全体の基盤となっていたと考えられる。 同じく論文「『選択本願念仏集』建暦版の開版流布と絶版亡失」では、法然の主著『選択集』の初版である建暦版について検討した。『選択集』建暦版は、供養でなく流布を目的とした当時稀有な開版であり、開版によって流布した事例としては日本最初であるかも知れない。しかし、建暦版は今日一部も伝存していない。同じく流布を目的としながら、法然の本義をより正しく伝えようとした後続の延応版などによって、建暦版はその意義を終えたと言ってよい。 次に査読なし研究ノート「拙著『摂関院政期思想史研究』翼増三章」は、平雅行からの批判文への反論文第2弾である。平からの批判を予想していなかったため本稿は当初の研究計画にないが、報告者のこれまでの研究成果を検証し、今後の課題を整理する有意義な作業となった。特に第3章では、顕密体制論への過大評価によって研究史理解に歪みが生じていることを指摘できた。 そして査読付き研究ノート「顕密体制論の現在と未来」では、上記の平からの批判文への反論文第3弾として、思想史研究における顕密体制論の現状と将来について考察した。今日の思想史研究で顕密体制論が承認されているとは言い難く、同論の活路を切り開くためにはまずその定義や本質を明らかにすべきだ、との展望が得られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に平雅行から批判が寄せられたため、報告者は今年度、応答として研究ノート2本を公表した。これは当初の研究計画になかったため若干の遅れを生じたが、全体としては概ね順調だと言ってよい。 その他にも、今年度は学会発表で十分な成果が得られた。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度までの研究成果で未だ論文化していないものが幾つかあるので、それらを学術誌などに投稿していく。その作業に時間を割くため、学会発表の回数は少なくする。また、来年度は最終年度であるため、研究計画の仕上げ作業を行う。
|
Research Products
(9 results)