2013 Fiscal Year Annual Research Report
サケ属魚類の産卵遡上による河川―陸域生態系への物質輸送に関する生態学的研究
Project/Area Number |
13J07035
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
越野 陽介 北海道大学, 大学院水産科学院, 特別研究員(DC2)
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Keywords | サケ属魚類 / 安定同位体比分析 / ヒグマ / 河川生態系 |
Research Abstract |
サケ属魚類の産卵遡上は, 河川生態系の生産力や生物多様性に影響すると言われている。しかし, 我が国では, それに関する知見はほとんど得られていない。本研究では, サケ属魚類の産卵遡上が河川生態系に果たす役割について明らかにする。 サケの産卵遡上が河川生態系に及ぼす影響 ・河川付着藻類や底生動物の量は, サケ親魚による産卵床の掘り返し行動により減少した ・サケ遡上後には, 付着藻類や底生動物の量はそれらの現存量は増大した ・底生動物の群集構造は, サケ遡上期(2~3ヵ月間)には遡上前後と比べて異なっていた ・秋季に河川性魚類は, サケの卵や肉片を多く摂餌していた ・産卵河川のサクラマスは, 非遡上河川に比べて, 成長速度が4倍高かった これらの事は, サケの産卵遡上は日本の河川生態系において生態系エンジニアと栄養補償の機能を果たしており, 短期的にではあるが水生生物の生産力に影響を与えていることを示す。 ヒグマによる河畔林へのサケ由来栄養輸送 ・ヒグマによるサケ捕食部位や河畔への輸送距離は, サケの遡上数に応じて変化した ・炭素窒素安定同位体比分析により, 知床半島におけるヒグマのサケ利用率は50-80%であった ・ヒグマには, 夏から秋までに3つの摂餌パターンが確認され, 一年中沿岸で海由来の餌生物を利用している個体が多く存在していた これらの結果は, サケの自然な産卵遡上河川が多く, 森と海の距離が近いという, 世界遺産である知床半島特有の環境を反映していると考えられる。本結果で見られたヒグマの多様な食性パターンは, ヒグマ生活史の多様性やその保全を考える上でも, 非常に貴重な結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
サケの産卵遡上が河川生態系の生産力に与える影響やヒグマによるサケの利用に関しては, ほぼ終えることが出来た。野生サケ稚魚の成長および降下行動や親魚の遡上動態に関しては, 大方のデータは取り終えているため, あとは解析を残しているのみである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は, 対象河川数を増やし, 大規模な河川スケールにおけるサケによる物質輸送動態の現状を把握する。また, 安定同位体比分析を中心として, 河川生態系におけるサケ属魚類による物質輸送経路の把握と, その質的および量的な評価を目的とした解析を行う。
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Research Products
(5 results)