2013 Fiscal Year Annual Research Report
二十世紀前半期における検閲・メディア・文化と文学表現の生成-永井荷風を視座として
Project/Area Number |
13J07152
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
岸川 俊太郎 早稲田大学, 政治経済学術院, 特別研究員PD
|
Keywords | 永井荷風 / 近代文学 / 日米交流 / 芥川龍之介 / 谷崎潤一郎 |
Research Abstract |
本研究の目的は、20世紀前半期を通じて創作活動を続けた永井荷風と時代状況との関わりを多角的な視点から把握することで、荷風の文学活動の全体像を捉え直すことにある。その上で、本年度は二篇の論文発表を通して、課題達成に向けての研究活動が具体的に進捗したものと考える。以下、論文に即しながらその内容を説明していきたい。 まず、「一九〇四年の永井荷風 新出書簡をめぐって」(『三田文学』第114号)では、荷風の滞米時代に焦点を当てた。荷風の滞米初期、とりわけ1903年から1904年にかけて約一年間に及んだタコマ滞在時代は、荷風が深刻な創作不振に襲われた時期であり、この間の荷風の苦悩の内実は不分明な点が少なくなかった。こうした研究状況に対して、本論ではタコマ時代の荷風の新出書簡を手掛かりに、更なる研究調査を重ねることによって、この時期の荷風の文学活動並びに精神的苦悩の実態について新たな光を当てた。これによって、タコマ時代の荷風の文学営為の一端が解明されるとともに、その後の滞米時代における荷風の創作活動に関しても、新たな研究展望が拓かれる契機となったと考える。 次に、「大正後期から昭和初期における芥川龍之介と谷崎潤一郎―永井荷風「雨瀟瀟」を媒介として―」(『芥川龍之介研究』第7号)では、荷風の短編「雨瀟瀟」(1921)を複層的に論じた。具体的には「雨瀟瀟」の内容分析を行い、同作の試みを表現形式の多様性を焦点化した荷風の小説実験の成果として位置づけ直した。その上で、同作に対して異なる評価を与えた芥川龍之介と谷崎潤一郎の姿勢に着目し、「雨瀟瀟」に込められた荷風の文学的試みを両者との関わりのなかで捉え直した。これによって、「雨瀟瀟」の文学表現が、荷風文学内での作品評価の問題として解消されるのではなく、1920年代の文学状況のなかで意味づけられることになったと考える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、20世紀前半期を通じて創作活動を続けた永井荷風と時代状況との関わりを多角的な視点から把握することで、荷風の文学活動の全体像を捉え直すことにある。その上で、これまで行ってきた研究調査、およびそこから得られた研究成果は当初の計画通り順調に進展しているものと判断する。その理由を簡潔に記せば、一つは、滞米時代の荷風の同時代資料を手掛かりに、この時期の荷風の文学活動並びに精神的苦悩の実態について新たな光を当てることができた点が挙げられる。もう一つの理由としては、荷風の短編「雨瀟瀟」を視座として、1920年代の文学状況のなかで荷風の文学的営為の意味を捉え直すことができたことが挙げられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、20世紀前半期を通じて創作活動を続けた永井荷風と時代状況との関わりを多角的な視点から把握することで、荷風の文学活動の全体像を捉え直すことにある。その上で、本研究課題の達成に向けての今後の研究の推進方策としては、荷風が身を置いていた同時代環境を明らかにする一次資料の更なる収集、調査を行い、これを通して、荷風の文学活動の実態を把握していくことを考えている。その際、研究調査の対象となる資料群については当初の研究計画に固執することなく柔軟に対応し、研究成果の更なる飛躍につなげていきたい。 以上の研究調査とそこから得られる研究成果を踏まえて、二十世紀前半期における検閲とメディアをめぐる文化・社会・政治的状況から荷風の文学表現の生成環境を照らし出し、出発期から晩年までの荷風の文学的営為の全貌を解き明かすことで、本研究課題を達成していきたい。
|
Research Products
(2 results)