2014 Fiscal Year Annual Research Report
二十世紀前半期における検閲・メディア・文化と文学表現の生成-永井荷風を視座として
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13J07152
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
岸川 俊太郎 早稲田大学, 政治経済学術院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 永井荷風 / 日本近代文学 / 日記 / メディア / 上海 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は当該研究領域の主要な学会誌である『日本近代文学』(日本近代文学会)への論文発表と上海で開催された国際フォーラムにおける口頭発表を通して、課題達成に向けての研究活動が具体的に進捗したものと考える。以下、本年度の研究成果の概要について述べたい。 まず、「『毎月見聞録』の時代―大正期荷風文学と同時代の関わり―」(『日本近代文学』第91集)では、大正期の荷風の文学活動に焦点を当てた。具体的には、荷風が編輯に携わった『文明』『花月』(1916~1918)という雑誌メディアに連載された世相世事の記録文『毎月見聞録』に着目、同作品の記述と同時代資料を比較・分析することを通して、荷風と同時代社会との複層的な折衝の様相を明らかにした。さらに、『毎月見聞録』と同時期に執筆された荷風の小説作品や日記を比較することによって、実際に『毎月見聞録』の記述が『腕くらべ』『おかめ笹』といった小説作品の文学的素材の役割を果たしていたこと、また、『毎月見聞録』と日記『断腸亭日乗』との間に文学表現上の密接な結びつきがあることが解明された。 次に、国際フォーラム『日中文学関係―上海をを中心として』における口頭発表「永井荷風と中国―上海体験を手掛かりとして―」では、荷風の上海体験を視座として明治期の荷風の文学活動を捉え直した。1897年、上海に約3ヵ月の間滞在した荷風は、帰国後、当地での体験を踏まえた短篇「烟鬼」(1900・1)を発表する。当該口頭発表では、同作品に描かれた様々な固有名に注目し、一連の記述と同時代資料とを比較・分析することによって、荷風の上海認識の特質を明らかにした。さらに、荷風の上海体験が、その後の滞米体験を基に執筆された『あめりか物語』(1908、博文館)所収作品の荷風の眼差しとも脈絡を有していることを指摘した。 以上の研究成果から、本年度の研究活動が着実に進展したものと判断する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、20世紀前半期を通じて創作活動を続けた永井荷風と同時代社会との関わりを多角的な視点から検討することで、荷風の文学的営為を捉え直すことにある。前年度の成果を踏まえながら本年度に行った更なる研究調査、及び、そこから得られた研究成果は、当初の計画通り順調に進展しているものと判断する。その理由の一つとして、『毎月見聞録』を手掛かりに、大正期の荷風の文学活動の実態に新たな光を当てることができた点が挙げられる。もう一つの理由としては、荷風の上海体験、及び、それを踏まえて書かれた短篇「烟鬼」に焦点を当てることで、明治期の荷風の文学的営為を捉え直す新たな視点が得られたことが挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、20世紀前半期を通じて創作活動を続けた永井荷風と同時代社会との関わりを多角的な視点から検討することで、荷風の文学的営為を捉え直すことにある。その上で、本研究課題の達成に向けての今後の研究の推進方策として、前年度の成果を踏まえながら、更なる同時代資料の収集、調査を継続することで、荷風の文学的環境の実態を明らかにしていきたい。それとともに、一連の研究調査から得られた成果を個々の荷風作品の解釈に活かすことで、20世紀前半期における検閲とメディアをめぐる文学・文化・社会・政治的状況から荷風の文学表現の生成環境を照らし出し、出発期から晩年までの荷風の文学的営為の全貌を解き明かすという本研究課題の達成に繋げていきたい。
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Research Products
(3 results)