2014 Fiscal Year Annual Research Report
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13J07198
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
長澤 伸樹 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 楽市楽座令 / 楽市 / 楽座 / 市場法 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目は前年度の成果と課題をうけて、引き続き「楽市」の実態と歴史的展開を、地域社会論の視座から複眼的に見直すねらいのもと、1.戦国大名権力による「楽市」の再検討と、2.中近世移行期における市場法史料の悉皆収集と、データベース構築を中心に取り組んだ。 具体的成果として、1では(1)駿河・富士大宮(今川氏)、(2)遠江・小山(徳川氏)、(3)大和・多聞(松永氏)の三例を取り上げて分析を加えた。そこでは、在地(領主)の要請のもと、権力が文書発給という形を通じて呼応(「申付」)することで、初めて空間として視角的に捉えられる条件が整うなど、「楽市」が決して自生した普遍的存在ではなく、権力がその成立・廃止を決定づける性質を多分に有したものであることを明らかにした。 同時に、権力発給の流通・商業関係文書という枠組みの中で、「楽市」文言を含む史料の相対的位置をみると、各地域が立脚する基盤や社会情勢を色濃く反映しながら、その領域の中で短期に完結する、臨時的・限定的用法としてあらわれている傾向がつよい。具体的には、市場における平和状態の確立と経済混乱の回復、ないし権力の経済基盤確保と支配領域の可視化を目的として掲げられた概念と評価し得る。 2では、前年同様、16世紀初頭から幕藩体制成立の17世紀中期を範囲に、データベース構築に必要な刊本の購入、ならびに国立国会図書館本館・大学図書館・公立図書館等で、自治体史・史料集から文書・記録類の収集・複写にあたった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に即した実証研究の積み重ねにより、社会情勢や地理的条件など、地域の実態に即した「楽市」の多様なあり方を抽出するとともに、改めて通説のように、「楽市」という事象を、自生する存在ないし新都市(城下町)建設策として単線的に捉えられないことが明らかとなった。とりわけ多聞「楽市」の事例検討は、地域社会において「楽(ラク)」の概念がどのように捉えられ、楽市化が市場経済にいかなる効果をもたらすかを具体的に浮かび上がらせた点でも、大きな成果と考える。 また、「楽市」の相対的位置づけと歴史展開(成立―展開―衰退・消滅)を可視化する「データベース」構築に必要な中世市場法の収集についても、概ね完了した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、残る「楽市」の事例研究を継続・深化させつつ、これまでの成果をふまえた自己研究の総括をおこない、個人論文集刊行に向けた構想を具体的に固めることが最大の課題となる。一方で「楽座」の実証研究については未着手のため、早急に取り組む必要があるといえる。なお、研究総括については、その一部を大阪市立大学日本史学会大会にて報告することが決定している。 また、収集が完了した中近世移行期の市場法史料についても、データベース公表に向けて最終的な取りまとめをおこなっていく。
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Research Products
(6 results)