2013 Fiscal Year Annual Research Report
錯体ワイヤーを鋳型とした水素結合ネットワークの創出と光誘起強誘電相転移の発現
Project/Area Number |
13J07305
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
林 幹大 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ニッケルジチオレン錯体 / 二核錯体 / 水素結合 / πスタッキング |
Research Abstract |
ピラジンジチオラート(pdt)配位子へのプロトン付加反応は共役系の組み換えを伴い可逆に進行する。pdtを配位子としたNiジチオレン錯体は、溶液中ではプロトン付加によりその電子状態を大きく変化させることが知られている。しかし、pdt骨格由来の水素結合と、硫黄―硫黄、金属―硫黄を介した分子間相互作用とが共存する固相の報告例はない。このような相ではプロトン移動と電子移動とが竸合し、プロトンーエレクトロン相関を強く反映した物性発現が期待される。本研究ではテトラチオオキサレート(tto)により架橋されたpdtを末端配位子とするNi二核ジチオレン錯体に着目した。混合原子価状態の導入により光誘起分子内電荷移動に伴うNiの価数変化が水素結合中のプロトン変位を引き起こし、秩序一無秩序型の強誘電現象の発現が期待される。このような相の創製は光とプロトン移動と電子移動とが竸合する現象の解明を可能とし、生態系を模倣したより高次のシステムの構築が期待される。 昨年度の研究において、pdtを両末端配位子として持つtto架橋Ni二核錯体(錯体1)を合成し、単結晶X線構造解析により詳細な構造を明らかとした。電気化学測定により、還元側にtto部位に由来する連続した可逆な2電子の酸化還元波(-0.94, -1,66 V (Fc+/Fc))、酸化側に電極表面への析出に由来する大きな酸化電流(0.25 V (Fc+/Fc)を示す事を明らかとした。光化学測定から、近赤外領域(1150nm)にHOMO-LUMO遷移に由来する大きな吸収帯(吸光係数14000 M-1 cm-1)を有す事を明らかとした。これら溶液物性は、酸添加によりプロトン付加状態の共鳴安定化に由来する酸化還元電位のポジティブシフト、HOMO-LUMOエネルギー差の減少に対応する吸収帯のブルーシフトを示した。プロトン付加された錯体1の構造は単結晶X線構造解析により明らかとし、その結晶中において錯体間には水素結合と金属―硫黄間相互作用とが共存していることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究達成の為に解泱すべき課題は3段階あると考えている。昨年度は主に交付申請書に記載した「課題1」、「課題2」の解泱のために研究を遂行した。分子設計の戦略として交付申請書に記載した2種を考え、戦略①は合成の難度のため中断し、戦略②を中心に施行した。その結果、新規ニッケルニ核錯体の合成、プロトン付加による溶液物性変化の発現、高次に配列した水素結合を有す超構造体の構築に成功した。この戦略②に基づく超構造体は、水素結合のみならず分子間に金属―硫黄の相互作用を有すため、その物性評価から戦略①に比ベプロトン移動と電子移動との競合現象をより明瞭に解明しうる。よって、研究は当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
最終的な課題3の解決には光照による特性変化を達成る必要があり、戦略②において混合原子価状態を導入し光誘起分子内電荷移動を引き起こすか、戦略①の再開が不可欠である。戦略①の再開には合成経路を再考し、例えば対称性の高い分子を利用するなど合成難度を低下させて対応する必要がある。また、戦略②の混合原子価状態の創出には化学的、もしくは電気化学的な酸化を利用し、結晶成長させる必要がある。
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Research Products
(3 results)