2014 Fiscal Year Annual Research Report
錯体ワイヤーを鋳型とした水素結合ネットワークの創出と光誘起強誘電相転移の発現
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13J07305
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
林 幹大 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ニッケル錯体 / 二核錯体 / 水素結合ネットワーク / 電気伝導度 / プロトンーエレクトロン移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
プロトン供与、受容部位を配位子として有す金属錯体は、その多段階の酸化還元状態に応じて酸解離定数を変化させる。そのような分子を水素結合で連結した固体は、水素原子の位置変化に付随した物性変化、例えば誘電性や電荷移動相互作用の変化を示す。特にプロトン移動と電子移動とが競合した相(PET相)では、プロトンーエレクトロン相関を強く反映した物性発現が期待される。しかしながら、そのような相の発現は高圧のような極限下にのみ留まっており、新たな分子の開発が相の安定化へのブレークスルーと成る可能性が高い。ピラジンジチオラート(pdt)を配位子としたニッケルジチオレン錯体は、溶液中ではプロトン付加によりその電子状態を大きく変化させることが知られている。pdt骨格由来の水素結合と、硫黄―硫黄、金属―硫黄を介した分子間相互作用とが共存する固体においてPET相の発現が期待されるが、そのような固体の報告例はない。本研究ではテトラチオオキサレート(tto)により架橋されたpdtを末端配位子とするニッケル二核ジチオレン錯体(錯体1)に着目し、その水素結合を有する固体(錯体1H)の創製を目指した(戦略1)。また、pdtを配位子とする単核ニッケル錯体(錯体2)とメチルビオロゲン(MV)との間の光誘起電子移動にも着目し、両者を構成単位とする水素結合固体の創製を目指した(錯体2H・MV)(戦略2)。このような相の物性探索は、光とプロトン移動と電子移動とが競合する現象の解明を可能とし、生態系を模倣したより高次のシステムの構築が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度の研究において、戦略1、2共に目的とした2次元水素結合ネットワークを有する固体の創製に成功した。特筆すべきことは、両錯体とも水素結合ネットワークと垂直方向に一次元のπスタックカラムを有し、電気伝導が期待される点である。電気伝導度変化と構造変化との比較はプロトンーエレクトロン相関の観察を可能とする。錯体1Hの電気伝導度は1.1 x10-5 S cm-1程度であり、8 GPaの圧力下において約1500倍まで向上した(1.6 x10-2 S cm-1)。圧力下のラマン分光測定より、水素付加した配位子(Hpdt)に由来するスペクトルの消失を確認し、水素結合ネットワークの組み換えと電気伝導度の向上に相関が見出された。また、錯体2H・MVにおいては1000 cm-1付近に電荷移動に由来するピークを確認した。よって、研究は当初の計画以上に進行していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の研究において、錯体1Hと錯体2H・MVの電気伝導度測定、分光測定を行い、外部刺激(圧力、光照射)に対する応答変化を観測する予定である。この実験によって、目的とした光とプロトン移動、電子移動とが競合する現象のメカニズムの解明が可能となる。また、錯体1、錯体1H、錯体2H・MVに関する論文を執筆する。
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Research Products
(3 results)