2013 Fiscal Year Annual Research Report
15世紀ローマにおける礼拝堂装飾壁画研究-システィーナ礼拝堂を中心に
Project/Area Number |
13J07487
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
荒木 文果 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | システィーナ礼拝堂 / ボッティチェッリ / フィリッピーノ・リッピ / 壁画 |
Research Abstract |
本研究は、ヴァチカンのシスティーナ礼拝堂で、教皇シクストゥス4世(1471-84)の命により、主にフィレンツェとウンブリアの画家たちによって制作された壁画(1481年から82年)を対象とし、その詳細な観察と関連する同時代史料の分析を基礎として、本礼拝堂の個別研究及び同時代に制作されたローマを中心とする他の礼拝堂壁画との関連性を探る事を目的とする。本年度は、申請時の研究計画に則り、以下の二点に関する研究を遂行した。 ① システィーナ礼拝堂における「被昇天の聖母」信仰の実態と祭壇画《聖母被昇天》の図像伝播 システィーナ礼拝堂は、「被昇天の聖母」に捧げられ、祭壇壁面には《聖母被昇天》(後にミケランジェロが《最後の審判》制作した際に消失)が描かれていたが、従来その重要性が看過されてきたように思われる。そこで、教皇庁式部官ブルクハルトが執筆した式典記録Liber Notarum (E. Celani, ed. 1907)の1484年から1504年の8月15日(聖母被昇天の祝日)の記述を辿り、本礼拝堂における「被昇天の聖母」信仰の実態への接近を試みた。さらに、システィーナ礼拝堂の《被昇天》図像の伝播に関して、2013年8月26日~9月14日には、サンタ・マリア・デル・ポポロ聖堂(ローマ)のバッソ・デッラ・ローヴェレ家礼拝堂壁画、サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ聖堂(ローマ)のカラファ礼拝堂壁画、サン・ジョヴァンニ・エヴァンジェリスタ聖堂(ティヴォリ)の主礼拝堂壁画を中心とした現地調査および資料収集行った。 ②サンドロ・ボッティチェッリおよびフィリッピーノ・リッピの仰視的モチーフを用いた構図の効果 2014年1月12日~3月16日にかけて、訪問研究員として所属したハーバード大学ルネサンス研究所ヴィッラ・イ・タッティ(イタリア、フィレンツェ)滞在時には、15世紀システィーナ礼拝堂壁画装事業において、一定の条件下で、画家たちがどのように自身の手腕を発揮したのかについて、特にボッティチェッリの作品を中心に、フィリッピーノ研究の第一人者であるJ・ネルソン氏と議論を交わしながら、考察を進めた。本議題は、2014年中に口頭発表および学会誌への投稿によって公表するべく準備を進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、史料読解と原子調査によって、システィーナ礼拝堂における「被昇天の聖母」信仰と祭壇画《聖母被昇天》図像のローマを中心とした伝播に関して、その実態解明に接近することができた。さらに15世紀システィーナ礼拝堂壁画装飾事業における共同制作の中での画家の創意に関して、新たな視点を定めることができた。その際、当初予定していなかったハーバード大学ルネサンス研究所ヴィッラ・タッティ滞在は大変有意義であった。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、ウンブリア派とフィレンツェ派のローマにおける画家の競合意識について研究を進める。特に、システィーナ礼拝堂壁画及び本壁画装飾事業直後にピントリッキオが制作したブファリーニ礼拝堂壁画とフィリッピーノが制作したカラファ礼拝堂壁画の差異に目を向けつつ、各画家の創意を比較する。これは当初3年次に予定していた内容であるが、1年次の研究の進展状況から先に着手することが妥当であると判断した。考察においては、各壁画の詳細な分析および比較と共に、ローマで活動した画家に関する同時代人の評価を示す文献を各画家のモノグラフや画家の競合意識に関する基本文献ゴッフェンのRenaissance Rivals (2002)を参照し、ローマにおける二流派の立ち位置を解明したい。
|
Research Products
(4 results)