2014 Fiscal Year Annual Research Report
教育制度と教育機会格差の関連に関するシミュレーション研究
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13J07719
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
濱本 真一 東北大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 教育機会不平等 / 合理的選択理論 / 選抜制度 / シミュレーション / 数理モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,教育制度の変化による教育機会不平等構造への影響を捉えることを目的とする.教育制度のなかでも選抜制度に着目し,選抜の早期化によって教育機会の階層間格差が助長されるのかを検証する. 早期段階の選抜において出身階層の影響が強く,後期段階で小さくなるという「階層効果逓減」と呼ばれる現象は多くの国で確認されている.本研究では,進学における差異を,進学した学校のタイプという質的な差異に拡張し,さらに中学校段階での質的差異も考慮したうえでの階層効果逓減を検証する. 本研究は,社会調査データを用いた計量分析と,数理モデルを用いた人工社会シミュレーションという2つの手法を用い,義務教育段階の選抜に出身階層は影響を与えているのか(移行ごとの階層効果),早期の教育機会不平等は後期の学校段階移行の不平等に影響するのか(経路依存),選抜の早期化により教育機会の階層間格差は拡大するのか,それとも縮小するのか(制度の効果)の3つの問いを検証する. 平成26年度は,大きく3つの課題に取り組んだ。第1に、前年度に引き続き既存の社会調査データを用い,学校段階ごとの教育機会不平等の大きさとその世代変化を捉えるための分析を行った.第2に、比較的新しい教育制度である公立中高一貫校に着目し、制度発足以降の世代の教育達成プロセスをとらえるべく、若年世代に対するインターネット調査を企画、実施した。第3に、合理的選択理論に依拠し、個人の進学の意思決定を記述する数理モデルを作成し、教育機会不平等が生じる条件に付いて考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1.高等教育の不平等化:本年度は、前年度に引き続き既存の研究成果である高校・大学間での階層効果逓減現象の世代を通じての趨勢を分析した。分析には、最近の高度な統計手法を応用し、同一の学校段階の質的差異を含んだ教育機会格差の世代間比較が可能になるように展開した。その結果、階層効果逓減といわれるこれまでの構造は、現代の日本では崩壊しており、高等教育段階での不平等化という現象が確認できた。現在この分析の結果をまとめ,社会学関連の学術雑誌への掲載が決定している. 2.義務教育段階の不平等の検討:中学校段階の質的分化に対する出身家庭背景の規定力を抽出するため、若年世代を対象としたインターネット調査を行った。調査依頼、実査は民間の調査会社に委託し、私立中学校、公立中高一貫校などの出身者を対象にした分析に耐えうるように有意抽出を行った。現在、データは完成しており、分析中である。 3.教育機会不平等の理論モデル構築:平成25年度までの研究成果を発展させて、個人の進学意思決定を数理モデルによって表現し、人工社会による進学シミュレーションを行った。まず、既存の意思決定モデル(相対リスク回避モデル)を、現在の日本の教育システムと整合的になるように改良し、そこから導かれる教育機会格差の発生条件に付いて数学的に定式化した。 さらに、数理モデルが含むいくつかの仮定やパラメータの値の妥当性を確かめるべく、数理モデルによる社会をコンピュータ上に再現し、シミュレーションから得られる社会状態を現実データと比較した。シミュレーションと現実データの整合性を高めていった結果、既存のモデルのいくつかの仮定が成り立たないことが分かった。出身階層による教育機会不平等は、合理的選択のメカニズムよりは、資源制約の要因が大きいといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
直近の課題は,2.で得られたデータを解析し、比較的新しい制度変化である公立中高一貫校進学者の教育達成について検討することである。このデータ分析を通じて、近年の教育変動も含んだ教育システムと機会格差の関係について一般化する。 また,人工社会におけるシミュレーションも発展しうる.平成25年度には、紀要行く機会の規模と格差の関連を考察した。それらと本年度の結果を踏まえて,制度と個人の進学意思決定を同時に記述・説明できるモデルを発展させる.さらに計量分析の結果とシミュレーションの結果とを結びつける理論を構築し、制度と不平等に関する一般的な命題を導き出すことを目指す。
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Research Products
(8 results)