2014 Fiscal Year Annual Research Report
アドレノメデュリン-RAMP2システムの病的血管新生における意義の解明
Project/Area Number |
13J07817
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
田中 愛 信州大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アドレノメデュリン / 腫瘍血管新生 / 転移前土壌 / 恒常性維持 |
Outline of Annual Research Achievements |
内因性生理活性ペプチドであるアドレノメデュリンと、その受容体活性調節タンパクであるRAMP2の病態生理学的意義を明らかとするため、成体において遺伝子欠損誘導が可能な、誘導型の血管内皮細胞特異的 RAMP2 ノックアウトマウス (DI-E-RAMP2-/-)を樹立した。 DI-E-RAMP2-/-を用いて、腫瘍移植による腫瘍血管新生を検討した結果、DI-E-RAMP2-/-では腫瘍血管新生が抑制され、腫瘍増殖が抑制されていた。一方で、原発巣摘出後、腫瘍の遠隔臓器への転移を検討したところ、DI-E-RAMP2-/-では転移が亢進するという結果が得られた。 そこで、遠隔臓器における転移前の環境、すなわち転移前土壌に着目した検討を進めた。転移予定先である肺においては、RAMP2遺伝子欠損誘導後、VE-カドヘリンなどの血管内皮細胞間の接着因子の発現低下と、内皮細胞の変形や逸脱などの血管構造異常が観察された。DI-E-RAMP2-/-の血管内皮細胞を分離しアクチン染色したところ、細胞骨格の形成不全が認められた。そこで肺内の血管内皮細胞を観察したところ、同様に内皮細胞の形態不全を認めた。さらにDI-E-RAMP2-/-の肺に生じる変化を時系列で観察したところ、RAMP2欠損後早期の段階から、肺内へのマクロファージの集積を認め、TNF-α、IL-6などの炎症系サイトカインの発現亢進が認められた。肺における炎症は慢性的に継続し、RAMP2欠損誘導後の後期においては、腫瘍細胞を転移巣へと誘導するとされるS100A8/A9の発現亢進も確認された。 以上の結果から、血管内皮細胞のRAMP2欠損により、①血管構造の不安定化、透過性亢進が生じ、これによって炎症細胞の接着や浸潤が起こること、②血管における慢性炎症が、腫瘍細胞の「転移前土壌」となり、腫瘍の遠隔臓器への転移を促進させることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
誘導型の血管内皮細胞特異的 RAMP2 ノックアウトマウス (DI-E-RAMP2-/-)の樹立に成功し、マウスが成体になってから RAMP2 遺伝子の欠損誘導を行うことが可能となった。これにより、従来はノックアウトマウスが胎生致死であるため、成体での解析が困難であった点を克服し、AM-RAMP2 系の成体での病態生理学的意義を検討することが可能となった。現在、DI-E-RAMP2-/-を用いて、腫瘍の増殖、転移におけるAM-RAMP2系の意義の検討を進めている。これまでの検討から、DI-E-RAMP2-/-では、B16F10 メラノーマの皮下移植において、血管新生は減弱し、腫瘍増殖が抑制されていた。その一方で、B16BL6 メラノーマ細胞を用いて、原発巣摘出後の遠隔臓器への転移の検討を行ったところ、DI-E-RAMP2-/-では 肺への転移が亢進するという知見を得ている。 さらに、DI-E-RAMP2-/-の腫瘍内血管に着目した解析を中心に行った。血管内皮細胞のRAMP2欠損誘導により、腫瘍内の血管内皮細胞の構造は不安定化し、内皮間葉系転換(EndMT)様の所見が認められた。一方、血管内皮細胞にAMを投与することで、EndMT様変化は抑制された。腫瘍組織を電子顕微鏡で観察すると、DI-E-RAMP2-/-では腫瘍内血管構造が不安定化し、原発巣から腫瘍細胞が漏れ出しやすい状態になっていることが確認された。 以上の結果から、DI-E-RAMP2-/-では、転移予定先の肺で生じる内皮細胞の構造異常、血管透過性の亢進、炎症細胞の集積、腫瘍細胞遊走因子の産生による転移前土壌の形成に加え、原発巣の腫瘍血管におけるEndMTを伴う血管構造異常も、腫瘍細胞の転移促進につながっていることが明らかとなった。今後更なる解析を進めることで、がん転移抑制薬の開発につながることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
腫瘍移植による腫瘍血管新生を検討した結果、DI-E-RAMP2-/-では血管新生が抑制されていたが、一方で腫瘍の転移は亢進していた。興味深いことに、腫瘍内血管ではCD31陽性の血管内皮細胞数が減少しているのに対し、αSMA陽性の平滑筋細胞数は逆に増加し、血管内皮細胞から内皮間葉移行(EndMT)が確認された。腫瘍微小環境においては、EndMTによって形成された線維芽細胞が、腫瘍細胞の増殖や悪性化を亢進することが指摘されている。DI-E-RAMP2-/-では腫瘍微小環境そのものが変化している可能性を考えている。これらの仮説を証明するために、実際に原発巣から腫瘍細胞を分離培養し、腫瘍微小環境が内皮細胞に与える影響を検討する。 さらに、AM-RAMP2システムを活性化することで腫瘍の転移を抑制できるのか検討を進める。現在、RAMP2を過剰発現させた内皮細胞ラインや、血管内皮細胞特異的RAMP2過剰発現マウス(E-RAMP2 tg)の樹立を行っている。今後、これらを応用し、in vitroにおいて腫瘍細胞の接着評価や、in vivoでの転移モデルを検討する。 原発巣においては、今までの検討から、AM-RAMP2システムを活性化することで血管新生を亢進させ、原発巣を増大させてしまうことが示唆された。E-RAMP2 tgや外因性のAMを投与することによって、原発巣の血管がどのように変化するのか、ICGを用いて腫瘍内の血管造影を行う。
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Research Products
(11 results)