2013 Fiscal Year Annual Research Report
時間遅れをもつ感染症モデルを含む非線形力学系の漸近挙動及び定性理論
Project/Area Number |
13J07819
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
江夏 洋一 東京大学, 大学院数理科学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 遅延微分方程式 / 安定性 / Lyapunov汎関数 / llopf分岐 / 感染症モデル |
Research Abstract |
本年度は, マラリアや黄熱病などの, vector populationにおける感染潜伏期間を表す時間遅れをもつSIRS (Susceptible-Infected-Recovered-Susceptible)感染症モデルや関連するウイルス流行モデルにおいて, (感受性個体の新規感染を規定する)接触項の非線形性と遅れの長さが解の漸近挙動にもたらす特性変化に対する飛躍的な改善結果を得た. はじめに, 時間遅れをもつSIRS感染症モデルにおいては, 感染の定着を示す平衡解の周りでの線形化より得られる微分方程式の特性方程式の固有値解析について, 接触項が非単調な場合に用いられた手法の本質を理解することで, 感染平衡解が局所漸近安定であるためのYang, Xiao (2010)が得た, 感染個体の抑制効果(inhibition effect)を考慮した具体的な非線形接触項を含めたモデルにおける十分条件を改善した. 上で述べた接触項に含まれる感染力の非単調性と遅れの長さがモデルのllopf分岐を引き起こし, 平衡解が不安定化するための(飽和定数に関する)閾値条件を明らかにした. 本結果は, 査読付き国際誌Mathematical Biosciences and Engineeringに出版された(13. 研究発表欄の1番目を参照). さらには, コンピュータのセキュリティホールを利用して振る舞う, コンピュータウイルス流行モデルの解の漸近挙動を調べ, ウイルスがホストに侵入し, アクティブ化に至るまでのタイムラグを考慮した遅延方程式の感染平衡解が大域的に漸近安定であるための十分条件を, Lyapunov関数法と比較定理から導かれる単調反復法の組み合わせより得た. このモデルは, Han, Tan (2010)とRen et a1. (2012)が別々に提案した, アンチウイルスソフトによって獲得されるウイルス免疫損失を考慮したシステムの改良版である. 本結果は, 査読付き国際誌International Journal of Computer Mathematicsにて出版された(13. 研究発表欄の2番目を参照).
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
接触項が感染個体数について単調でない場合において, 感染の定着を示す感染平衡解が局所漸近安定であるための十分条件を得ただけでなく, 具体的な接触項に対し議論を行ったYang, Xiao (2010)が得た感染平衡解の安定性に関する十分条件も改善できた. このことから, 申請者の研究は初年度の年次計画に従い, おおむね順調に進展したと言える.
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Strategy for Future Research Activity |
SIRS感染症モデルやSEIRS感染症モデルなど, 個体の性質がcyclicに変化を遂げる感染症モデルにおいて, 未だ多く残されている解の安定性に関するopen problemの解決に, 引き続き取り組む. 特に, 接触項の非線形性および感染力の感染個体に関する非単調性を含めた感染症モデルにおいて, 提案されてきたLyapunov汎関数の構成法や比較定理から導かれる単調反復法の応用範囲も今後さらに拡大してゆきたい.
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Research Products
(11 results)