2013 Fiscal Year Annual Research Report
多ニューロン画像法を用いた記憶の獲得・固定メカニズムの解明
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13J07832
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
乘本 裕明 東京大学, 大学院薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 海馬 / 脳波 / ドパミン |
Research Abstract |
本研究の目的は、海馬における、脳波発生時の神経活動様式から記憶の獲得・固定メカニズムを解明することである。中でもリップル波は記憶の固定化への関与が示唆されており、科学的な興味深さのみならず、臨床的な観点からもその発生・調節メカニズムの解明が急務である。 今回、私は電気生理学的手法と多ニューロン画像法(fMCI)を海馬急性スライス標本に併用し、自発的にリップル波を発生する神経回路の挙動を大規模に可視化した。すると、リップル波の発生と同期した、多数のニューロンの発火を認めた。次に、海馬のすぐ下流にある領域『海馬支脚』にfMCIを適用した。すると意外にも、海馬支脚ニューロンは、海馬の下流領域であるにも関わらず、リップル波発生時に海馬ニューロンよりも先に発火することを見出した。本研究をまとめ、投稿したところ、Scientific Reports誌に受理された。 また、リップル波を調節する物質としてドパミンに着目し、ドパミンがリップル波に与える影響を検証した。その結果、リップル波の発生頻度が有意に上昇した。この頻度上昇はドパミンのwash-out後も持続し、可塑性を呈した。また、この効果はD1/D5アンタゴニストSCH23390によって阻害されたが、D2アンタゴニストSulpirideによっては阻害されなかった。そこでD1/D5アゴニストSKF38393を同様に灌流適用したところ、ドパミンを適用した際と同様の頻度上昇が見られた。ドパミンはlate-LTPを引き起こし、LTPはリップル波の発生に関わることが知られている。しかし、我々の結果は、late-LTPでは作用の速さが説明し難い点、その効果がwash-out後も持続する点で興味深い。これらの結果より、ドパミンはD1/D5受容体を介し、late-LTPとは別の経路を通じて、リップル波の発生を調節していることが推察される。以上の内容をまとめ、現在論文を執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「多ニューロン画像法」を応用し、従来の技術では解明できなかった海馬支脚の新奇活動様式を見出した。本研究は内外から高く評価され、研究を始めて一年で論文受理に至り、また、日本薬学会第134年会において優秀発表賞を受賞した。
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Strategy for Future Research Activity |
申請研究では、海馬の情報処理機構における脳波の機能的役割に着目する。これまでの生体動物を用いた知見で、睡眠時または安静時に、行動時と類似の神経活動が再生される「メモリーリプレイ現象」の存在が示唆されている。海馬においても、行動課題中(シータ波発生中)に観察された数個の細胞の時空間的な活動パターンが、その後の睡眠中(リップル波発生中)に時間的に圧縮されながら、再生されることが知られている(Lee and Wilson, Neuron, 2002)。申請者はこれまでの研究をさらに発展させ、微小な電気刺激により、シータ波発生時に人工的に活動させた細胞群の活動をリップル波中において再生させることをスライス標本上で試みる。スライス標本においてメモリーリプレイ現象を人工的に制御することに成功すれば、海馬の神経回路にメモリーリプレイを行うのに十分な機能が内在していることが明らかになるだけでなく、海馬の神経回路が情報処理を行うメカニズムの解明へとつながることが期待される。
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Research Products
(7 results)