2013 Fiscal Year Annual Research Report
東方教父における神化-ニュッサのグレゴリオスにおける人間理解をめぐって-
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13J07951
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
武富 香織 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 三位一体 / 聖霊 / 神人性 / 範型 |
Research Abstract |
本研究は、主に四世紀のギリシャ教父ニュッサのグレゴリオスのテキストを中心に、知的・修道的活動の中で成熟していった教父の神化思想を通して、西欧近現代以降に主流をなすようになった人格把握に対して、新たな人間観と一視点を提示することを目的とするものである。2013年度は計画書に記したとおり、1、神化の内的考察 2、思想形成を促したものについての考察、の二つを基調に行った。1のための必須の作業として、ニュッサのグレゴリオスによる『マクリナの生涯』(VIITA S. MACRINAE)、『完全性について』(DE PERFECTIONE)などの原典講読を行った。未だ邦訳のないこれらの文献を講読の主な材料とし、キリスト教における修道精神が、受肉や神化といった教理的側面といかに結びついているのかの検討を目指した。2では、四世紀における正統教理の構築過程を考察対象とし、哲学的思弁の中で高度に展開された神学議論の焦点を探ることが目指された。本研究では、ギリシャ的教養の受容によって当時のキリスト教世界にもたらされた、揺らぎ(異端的見解)と定式化のせめぎ合いの過程を、「ウシア」「ヒュポスタシス」「エネルゲイア」などの概念に着目しつつ考察し、これら闊達な神学議論がキリストの神人性への問いを軸に展開されてきたことを確認した。また、ここからキリスト教に特異な教義である三位一体論、聖霊論が形成・発展していった経緯を把握するよう努めた。教父たちは母語であるギリシャ語と高度な古典の教養でもって、キリスト教の素朴な教えを普遍化しようとした。その際教理の定式化に寄与したのが哲学の諸概念であったが、翻ってそれが別様の仕方で聖書解釈に援用されると異端的見解の誕生ともなり得る。四世紀の教会史は正統と異端を巡る争いともなったが、正統派は合理性の枠を用いて非合理なものを含み持つ宗教の教えを説明し尽くすことはなかったと言える。人間理性を絶対視するのでもなく、かといって盲信へ偏ることも良しとしなかった教父たちの知的営為は、非合理なものをいかに知解するのかという問題への取り組みであったと同時に、信ずること(信仰)の本質に迫る手がかりを与えてくれるものでもあると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ほぼ計画書に記したとおりの手順で研究を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
ギリシャ教父とギリシャ古典の比較、および教父と異端・異教の比較についてのより詳細な検討を行うために、主に計画の2に関して、今後はグレゴリオス自身のテキスト(主に教理的著作)とつき合わせての追究が必要であると思われる。
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