2014 Fiscal Year Annual Research Report
線虫をモデルとした個体間相互作用が行動を制御する分子機構の解明
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13J08052
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
土屋 純一 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | C. elegans / 嗅覚可塑性 / small G protein |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究で嗅覚可塑性の実験系として用いているのは、匂いを含むbuffer中に線虫を置く条件付けの時間が5分間という比較的短い時間である系である。この系では、線虫が完全に匂いから忌避するまでには至らず、ちょうど誘引と忌避が拮抗した状態となる。したがって、飢餓やBuffer中でのストレスといった直接的な要因だけではなく、様々な環境情報が統合されて匂いへの走性が変化しうる段階の嗅覚可塑性と言える。そのような環境情報の一つとして、線虫の培養時の個体群密度が嗅覚可塑性に影響を与えるという現象にこれまで注目してきたが、この他にも思いもよらない未知の経路が存在している可能性がある。そこで、今後は個体群密度と嗅覚可塑性を結びつける経路に対象を限定せずに、嗅覚可塑性を制御する新奇分子機構の発見を目指すことにした。 本年度は、順遺伝学的にスクリーニングされた、野生型に比べて嗅覚可塑性が不十分な変異体の原因変異の同定を試みた。SNP(一塩基多型)を利用した遺伝子マッピングと、次世代シーケンサーを用いた全ゲノムシーケンスを併用することで、4株の変異体について原因変異の候補を同定した。そのうち2株は、個体群密度が嗅覚可塑性を制御する経路に属する既知遺伝子であるnep-2に変異があることが分かった。残りの2株は、small G proteinであるRapのGAP(GTPase activating protein)と予想されているsipa-1に変異が見つかった。Rapによる行動可塑性の制御についての報告は他の生物を含めて少なく、本研究での今後の解析により新奇の知見がもたらされることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
次世代シーケンサーの使用により、嗅覚可塑性異常変異体の原因変異候補の同定が効率よく行えるようになった。同定したsipa-1の解析を開始したのに加え、他の変異体のいくつかについても原因変異を同定できる見込みが立っている。
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Strategy for Future Research Activity |
rap変異体等を用いた遺伝学的手法と、Rapに対するGAP活性の測定などの生化学的手法によりsipa-1のターゲットがrapであるかを検証する。これまで、線虫の嗅覚可塑性にはsmall G proteinのRasと、その下流のMAPK経路が関わっていることが知られている。さらに哺乳類では、RasとRapが拮抗的に機能することでMAPK経路が制御されることが知られている。そこで、嗅覚可塑性におけるRasとRapの相互作用の可能性と、それぞれが伝える情報がMAPK経路で統合される可能性について検証したい。
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