2013 Fiscal Year Annual Research Report
エリザベス朝文学にみられるイタリア受容の変遷と終焉
Project/Area Number |
13J08188
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
倉科 真季 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | エリザベス朝 / 英文学 / イタリア文学 / 比較文学 / シェイクスピア / ルネサンス / イギリス : イタリア |
Research Abstract |
本研究の目的は、エリザベス朝後期イタリア受容ブームの全体像を明らかにすることである。ブームの変遷を辿るために選定した5点の文学作品の中で、平成25年度はその最初期の例としてトマス・ワトソンのべトラルカ風恋愛詩集Hekatompathia (1582)の分析を行った。その具体的内容を以下に挙げる。 1. Hekatompathiaの精読 : ワトソンが本作に付した典拠等から、彼がペトラルカのみならずその模倣詩人達の詩作にも関心を抱き、ペトラルカを材料に自由な詩作をしていたことがわかった。そして一見ペトラルカに極めて忠実な体裁の恋愛詩を異質な主義主張の媒体としている可能性を考察した。 2. キューピッド表象の調査 : 本作における作者の真の主張を探るため、頻繁に描かれるキューピッドへの執拗な非難に着目した。調査の結果、エリザベス朝の文献においてキューピッドはカトリック攻撃の文脈で描写されることがあり、それ故本作も反カトリック言説と捉えうることを示唆した。 3. オックスフォード伯に関する調査 : ワトソンが本作でカトリックに告別する姿勢を打ち出した理由をHekatompathiaの献呈先であるオックスフォード伯に求めた。オックスフォード伯にはカトリック信仰の疑いがかけられており、本作が彼のカトリックとの決別を示唆することで、その政治的立場を擁護する役割を果たしたと結論付けた。 4. HekatompathiaとHarley MS 3277の比較 : 大英図書館にてワトソンの手による本作の手稿本の調査を行った結果、当該の資料にはカトリック非難を匂わせる表現が印刷版のHekatompathiaと比べ明らかに少ないことがわかった。 結論として、Hekatompathiaはペトラルカ模倣の恋愛詩集という体裁を取りつつ、その詩の内容はカトリックへの批判的態度を明示した作品と言える。物質的で肉欲的な恋愛の媒体としてカトリック信仰を助長する存在と認識されることもあったペトラルカのソネットを逆に反カトリックの文脈で利用する試みは、ワトソンが編み出した極めて実験的な新しいイタリア受容の方策であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の成果をもって、本研究の入り口となる議論の骨子を組み立てることができたため、おおむね当初の計画通りに研究が進行しているものと考えている。本研究の一番の目的である、シェイクスピア以外の同時代作家の作品を用いて多角的に当時のイタリア受容の様相を解明するという点に関しても、これまでそのような文脈で扱われることのなかったHakatompathiaの考察を通して、当該分野の研究に新たな視点を与えられつつあるのではないかと自負している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、イタリア受容が進展していく様子ついてさらに考察を進めるため、特にアレティーノ受容に関して研究を進める。エリザベス朝期に盛んに受容されたQuattro Comedieなどの狽雑な劇作、及び詩作品を英訳もしくはイタリア語の原典で読み進める一方で、アレティーノをダイレクトに受容したThe Unfortunate Traveller等のトマス・ナッシュの作品の分析も行う。それと同時にジョン・ウルフによるイタリア語出版に関しても論じる必要性があるため、ウルフが匿名で出版したマキアヴェリもしくはアレティーノの初期刊本を入手し、その解析結果を研究に反映させたいと考えている。最終的には本研究の成果を来年のEnglish Literary Renaissanceに発表することを目標に据える。
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Research Products
(2 results)