2013 Fiscal Year Annual Research Report
新たな視点と調査法に基づく日本語諸方言アスペクトの研究
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13J08418
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Research Institution | National Institute for Japanese Language and Linguistics |
Principal Investigator |
津田 智史 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 時空間変異研究系, 特別研究員(PD)
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Keywords | アスペクト / ヨルの意味 / トルの意味 / 基本的意味 / ムード / 卑語 |
Research Abstract |
本年度は、新たな視点から日本語諸方言のアスペクトを捉え直すため、特に西日本の数地点において臨地面接調査を実施した。また、西日本諸方言で使用されるヨル形に共通の意味を見出し、一つの基本的な意味から各地方言の用法を解釈できることを示した。 1. 各地方言におけるヨル形とトル形の意味記述 従来のアスペクト体系にとらわれない新たな視点での解釈に向け、山口県山口市など、西日本の各地で、ヨル形、トル形のふるまいについての調査を行った。調査はアスペクト局面での使用を中心とするが、各地方言で報告のあるムード的、待遇的な用法の事例についても確認を行い、アスペクト体系に当てはめるのではなく、ヨル形、トル形の表す意味を実際の用例の使用状況から規定した。その結果、例えば山口市方言では、ヨル形を「(動詞の表す)事態が存在することを表す」形式、トルを「(動詞の表す)事態が起こり、何らかの形で存在していることを表す」形式と規定できることが明らかとなった。この山口市方言については『地域言語22』にまとめた。 2. アスペクト形式における意味の共通性 西日本諸方言にみられるヨル形に焦点を当て、方言によってはアスペクト形式としてだけでなくムードや待遇的にヨル形が使用されるのはなぜか、またなぜそれらの意味を表すことができるのかについて考察した。存在表現「おる」は必ずしも下向きの待遇のみを表しておらず、卑語としての用法が基本ではない。各地方言のムードとしてのヨル形も表しているのは事態が存在することであり、これもヨルが持つ基本的な意味ではない。そこで、先行研究よりヨル形が内包する存在動詞「おる」の意味を「(主体的に)存在を描写する」ものとして規定し、その基本的意味から、アスペクト的意味である進行も含め、待遇的、ムード的に解釈可能であるとすることが、最も整合性があることを「日本方言研究会」において示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
西日本諸方言で用いられるヨル形、トル形の意味についていくつかの方言で記述的に調査を行い、その表す意味を把握することができた。調査地点は当初の予定と異なったが、結果的に各地方言におけるヨル形、トル形を横断的に捉えることができ、各形式の意味の共通性を見出すことが十分にできた。 総合的にみると、おおむね順調に進展しているといえよう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、追調査の必要な地点など数地点での記述調査を進め、順次まとめていく。そこからヨル形、トル形の表す意味の地域的な共通性を示し、それらの形式を西日本諸方言で横断的に捉え、それぞれの形式の共通の意味を、記述調査に基づき実証的に求めていく。これには、アスペクトに限らず、ムード、待遇として使用される場面での包括的な調査、考察が必要となる。 また、琉球方言では動詞終止形が存在動詞「おる」を形態的に含んでいることから、調査地域を徐々に琉球方言圏へと拡げていくことも必要になる。当面は動詞の活用や終止形のふるまいについての基礎的な調査から始め、アスペクトやムード、待遇といった面にも広げていきたい。
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Research Products
(5 results)