2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13J08442
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
由良 嘉啓 東京工業大学, 大学院総合理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 金融市場 / ランジュバン方程式 / ビッグデータ解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
外国為替レートの最も簡単なモデルは価格の変動がランダムウォークするモデルであるが,過去データを詳細に解析するとそこからの乖離が観測できる.データの統計的性質をより精緻に再現する数理モデルを構築し,市場の安定不安定性を評価することが本研究の目的である. 既存の数理モデルとして市場価格変動を詳細に記述できるものは提案されているが,注文情報まで含めた市場の数理モデルは現在進行形で研究されている.そこで本研究では,為替レートの揺らぎと指値注文の関係性に対して,物理学におけるブラウン粒子が溶媒中を揺らぐ系のアナロジーを導入し,物理学的視点から過去データ(ICAP社提供:為替市場の注文情報時系列)を解析した.アナロジーとしてこの物理描像が金融市場に適用できると仮定すると,市場価格をブラウン粒子の位置座標,また指値注文を溶媒分子として捉えることができる.また,実データ解析により為替レートと指値注文の揺らぎは,溶媒中で揺らぐブラウン粒子の確率微分方程式と同じように記述できることがわかった.また,数多くの指値注文が市場価格近傍に置かれている場合,価格変動はその量に反比例して小さくなることが明らかになった.これは,ブラウン粒子の平均自由行程が溶媒分子の密度に反比例することと同様であると解釈できる.その他,二つの系の類似性から流体力学で用いられる系の離散性の強さを定量化するクヌッセン数が為替市場においても導入できることを指摘した.新しい変数の導入により,これまでは価格時系列から議論されていた金融市場について,市場毎の離散性を定量的に議論できるようになった.応用としてこの変数を用いると,クヌッセン数が大きくなり注文情報の非対称性が顕著になったときに暴騰暴落が発生しやすい傾向が確認できた.以上の成果は,市場の相を分類する土台となる重要な性質を発見し,数理モデル化している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は金融市場における価格と注文情報時系列の数理モデルを構築することにより,正確に市場の安定性や不安定性を評価することである.市場の統計的な性質を満たす精緻な数理モデルを導入することで,既存のリスク管理モデルよりも現実を反映した市場価格変動の揺らぎの評価ができると期待している.この目的のため,第一段階として為替市場の大規模なデータを解析し,為替レート変動とそれに伴う市場参加者の注文発注行動を調べその統計的な性質を明らかにした.その性質は物理学における溶媒分子の衝突により粒子が不規則な運動を繰り返すブラウン運動の数理モデルを用いて記述できることをデータ解析より示した.既存の価格時系列のみを利用するモデルと異なり,注文情報まで含んだ数理モデルであるため,より詳細に市場を記述できるようになった.今後,開発した数理モデルを用いた市場の時間発展を数値シミュレーションする方法を開発することで,市場の安定不安定性を評価する予定である. 研究の大まかな進め方の方針は1)市場のデータ解析 2)市場の統計的性質を満たす数理モデルの構築 3)市場のシミュレーション方法の考案 であるが,現段階では1と2のステップをおおよそ終えており,研究は順調に進んでいると評価している.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策についてであるが,既にデータ解析を終えてその統計的性質を満たす数理モデルは構築したため,次のステップはこれまでの結果を利用し市場の時間発展をシミュレーションする方法を考える. 市場は複数の市場参加者が納得する価格で取引を行うことで時間発展していくため,そのシミュレーションを行うには,仮想的な市場参加者とその戦略を考えなければならない.固有の取引戦略を持つ市場参加者を複数用意し,取引させることにより市場取引の時間発展を計算機上で追跡することができる.この結果は,設定するパラメータに依存するため,パラメータ毎のシミュレーション結果をまとめ,その性質を理解し,現実の市場と比較する必要がある.可能であれば理論的な解析解および近似解を得れば議論がしやすい.仮に構築したシミュレーションモデルが高い水準で市場の統計的な性質を再現できるならば,提案する市場シミュレーションの方法やそのモデルは妥当であることが示唆される. 構築したシミュレーション方法の応用として,リアルタイムに市場変動のリスクを評価することや,市場参加者の注文行動が市場に与える影響をあらかじめ推定することができると期待している.
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Research Products
(4 results)