2013 Fiscal Year Annual Research Report
大気内部で発生する非地形性慣性重力波の放射メカニズムおよびその特性の理論的解明
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13J08466
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
安田 勇輝 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 慣性重力波 / ジェット気流 / ダイポール渦 / 自発的放射 / 特異摂動法 / くりこみ群 / 準共鳴 |
Research Abstract |
重力波は大気中で運動量とエネルギーの再分配を行い、大気循環や物質輸送等にとって重要である。風が山を乗り越え発生する地形性重力波に比べ、ジェット気流等から放射される非地形性重力波は、力学的記述が難しく発生機構等がよく分かっていない。申請者は修士課程において、特異摂動法の一つであるくりこみ群の方法を用いて、非地形性重力波の放射及び伝播を記述する理論式を導出した。また、ダイポール渦の数値シミュレーションを利用して、理論式の妥当性を確認した。 本年度は、導出した理論式を更に調べ、重力波放射の物理的メカニズムを明らかにした。理論式は、ジェット気流等の流れから重力波が準共鳴過程により励起される様子を記述するが、その過程は更に二つに大別できる。一方は、ジェット気流前後の加速・減速により流体が水平方向に押しつぶされ、鉛直流を生じて準共鳴が起こる。他方は、ジェット気流の周りの温位面が山の役割をし、この山を超える流れにより鉛直流が生じ、準共鳴が起こる。これらの結果は、複数の国内・国際学会で発表済みである。また、国際学会誌Journal of Atmospheric Sciencesに投稿し、現在、査読コメントに基づき改訂中である。 また、約2ヶ月間、米国のWoods Hole Oceanographic Institutionで開催されたサマースクールに参加した。滞在期間中は、簡単化した力学モデルを用いて、降水に対する極域の海洋循環の応答を調べた。その結果、海洋が持つ三つの固有時間スケールが、降水への応答の早さと強さを決定することが分かった。 この結果は、国際学会で発表済みであり、近々、論文として投稿予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通りに、ミクロな視点から重力波放射を記述する理論式を、特異摂動法の一種のくりこみ群の方法と固有関数展開を用いて導出した。この理論式は、重力波放射の物理的メカニズムを明らかにするだけでなく、重力波の放射と伝播、また放射によるジェット気流への反作用を統一的に記述可能である。また、この理論式と熱統計力学的な手法を組み合わせて、重力波放射を記述するマクロな理論が構築可能であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在改訂中の重力波放射に関する論文2編、および近々投稿予定の海洋循環に関する論文を出版する。また、マクロな視点から重力波放射を記述する理論を、近年提案された熱統計力学的な手法を用いて構築する。この理論により、重力波の放射によって失われるエネルギーと、ジェット気流等の大規模な流れの持つエネルギーとの関係式が明らかになると期待される。この新理論を構築するため、フランスのリヨン高等師範学校のBouchet教授の元に短期留学を予定している。また、導出したミクロ・マクロな理論を、ジェット・フロントシステムや台風等のより現実的な系に適用し、重力波放射の統一的かつ物理的な理解を目指す。
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Research Products
(6 results)