2013 Fiscal Year Annual Research Report
ピエール・ベールにおける良心の自由と政治の問題-ポール・ロワイヤルと比較して
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13J08495
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
谷川 雅子 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ピエール・ベール / ピエール・ジュリュー / アントワーヌ・アルノー / 寛容 / 17世紀フランス |
Research Abstract |
本研究は、ピエール・ベール(1647-1706)における良心の自由の問題を、政治思想的側面からより深めることを目的とした。具体的には、17世紀フランスを生きたプロテスタントであるベールと同時代のカトリック作家たち(アントワーヌ・アルノー、ピエール・ニコル、ポシュエなど)との比較に加え、前世紀のフランスのプロテスタント(ユグノー)たちを視野に入れた。出発点として、アルノーとベールが共通して行う17世紀プロテスタントのピエール・ジュリューへの批判を設けた。このアルノーととベールの攻撃が、ジュリューが理論的背景とする16世紀ユグノーたちやカルヴァンの政治思想へ及んでいることを明らかにした。この批判を土台として、ベールが、16-17世紀のプロテスタントの政治思想と袂をわかちつつ、良心の自由と多宗教の共存という国家や社会像を考えていることをつきとめた。以上が本年度の実績の概要である。 ここから、新たなテーマとして、ベールにおける公と私の領域という問題が提起された。ユグノーたちへの批判を通じ、ベールは、個人の良心の自由を、他者の介入を許さない私的な領域として確保しつつ、社会的・政治的側面では、王の権力に社会の構成員みなが従うべきだ、とする。公の領域では、権力や実定法が絶対的な基準であるのに対し、私的な領域では、個人の理性を判断基準とする自然法が絶対的なものとなる。こうして、良心の自由と社会の秩序維持の両立が可能になる。この問題を次年度以降の課題としたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述の成果を、論文としてまとめ投稿することができ、新しい課題として、ベールにおける自然法、公私の問題などが浮かび上がったことから、おおむね順調な進展といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の課題は、ベールにおける自然法に加え、社会と道徳といった観点を取り入れる。ベールにとって、自然法は、個人の私的領域で良心を導く法であるのと同時に、万人にとって普遍的な法にもなる。それは、道徳の基準であり。その普遍性は、宗教を持つ以前の人間にも共有されうる。そこから、無神論者の道徳や神なき社会への考察が導かれ、個人がいかに公的存在として社会と結びつくのか、という問題が展開していく。 この問題を展開するベールの『続・彗星雑考』では、アルノーのイエズス会への攻撃を踏まえ、キリスト教の神を知らない民族(具体的には中国人など)にも道徳が存在しうることや、彼らが有徳な社会を形成しうることが議論される。この問題を扱うことを目標とする。
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Research Products
(4 results)