2013 Fiscal Year Annual Research Report
現代日本文学における精神的外傷と記憶の研究-女性と性的少数者の問題を中心に
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13J08503
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岩川 ありさ 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | トラウマ / ジェンダー / クィア / 現代日本文学 / フェミニズム |
Research Abstract |
「現代日本文学における精神的外傷と記憶の研究-女性と性的少数者の問題を中心に」という研究課題を遂行するにあたって、研究発表を合計4本(研究発表1、パネル発表2、ポスター発表1)、および、論文を3本発表した。 論文としては、「ドラァグ・クィーンとしての鬼束ちひろ-「共感共苦」という原理」(『ユリイカ』45 (5)、青土社、2013年5月)を発表し、クィア理論とトラウマ理論の視座から、歌手の鬼束ちひろ氏の歌を読み解く実践を行った。広く読者を得る雑誌に論考を発表したことで、様々な分野の研究者からフィードバックを得て、ポピュラー文化と精神的外傷の問題について考察するための新たな展開に繋がった。また、「トラウマと文学―女性たちが語りはじめる」(石原孝二・稲原美苗(編)『UTCP-Uehiro Booklet 2 : 共生のための障害の哲学 : 身体・語り・共同性をめぐって』、東京大学大学院総合文化研究科附属共生のための国際哲学研究センター・上廣共生哲学寄附研究部門、2013年10月)においては、トラウマと文学についてのこれまでの研究をまとめると同時に、ジェンダーとトラウマの相互関係について、新たな議論を提起するかたちでの成果となった。 研究発表では、2013年7月に神戸大学で行った「救われるということ-小野正嗣の文学を中心に」(日本文学協会、第33回・研究発表大会)において、子ども時代の精神的外傷とアイデンティティをめぐる問題について論じ、精神的外傷の語りの側面からの研究を進めた。また、日本近代文学会2013年度秋季大会では、パネル発表「フェミニズム文学批評のフロンティア―わたしたちの応答として」(関西大学、2013年10月)を行い、フェミニズムとトラウマ理論の接続を行い、その成果は、論文「「語りえない彼女の物語―岩城けい『さようなら、オレンジ』論」に結実した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ジェンダーとトラウマの相互関係について研究するにあたって、ジェンダー研究を専門とする研究者とともにパネル発表を行い、その成果を論文としてまとめた。また、性同一性障害をめぐるシンポジウムをオーガナイズし、性別越境とトラウマの関係についての理論的な側面からの研究を進めた。さらには、所属機関の記念シンポジウムにシンポジストとして登壇するなど、確かな研究成果を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
現代日本文学における精神的外傷と記憶の問題について研究する上で、今後、ポピュラー文化や表象文化についての分析が必要である。心が傷つく経験をした人々は、何とかして、自らの経験を理解しようとする。その際に、文学という形態をとるのみならず、様々な芸術的・文化的な表現によって、自らのトラウマ的な経験をあらわそうとする。今後、本研究では、トラウマに関する文学的な研究を進めると同時に、同時代におけるトラウマの表象を広く研究することで、トラウマについての文化的研究に資する成果をあげたい。
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Research Products
(8 results)