2013 Fiscal Year Annual Research Report
中世キリスト教における神化概念の展開-東西教会における精神性の差異-
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13J08573
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
袴田 渉 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | キリスト教思想 / 宗教学 / 中世哲学 / 教父学 / キリスト教史 / 否定神学 / 神秘主義 / 神化思想 |
Research Abstract |
本年度は、予定されていた約2か月間のフランスでの在外研究が、現地共同研究者たる中世キリスト教思想研究の第一人者ジル・ベルスビル教授の計らいによって大幅に延長されて4~9月の約6か月間にわたることとなったため、現地での中世キリスト教ギリシア語文献(偽ディオニュシオス・アレオパギテース『神名論』、『神秘神学』、『教会位階論』)およびラテン語文献(トマス・アクィナス『ディオニュシオス神名論註解』)の講読を大いに進め、十分な研究蓄積を築くことができた。 これらの文献講読と並行して、本研究の中心となるディオニュシオスの神化思想の生み出された史的背景を理解する上で重要な5~6世紀の教会史とギリシア思想史を研究し、特に彼の思想に多大な影響を与えたとされる新プラトン主義哲学者プロクロスの思想を、その主著『神学綱要』と『プラトン神学』に基づいて考察して、以下に挙げる三点の重要な知見を新たに得た。①ディオニュシオスは、神の存在構造の理論化を巡る当時のキリスト論論争の思潮に対して、そもそも人間が絶対超越的な神を認識しうるのは如何にしてかという神認識についての方法論的反省を深め、神を認識し叙述する方法としての「神学」の体系(肯定神学・否定神学・象徴神学)を構築した。②彼は、神化を「能う限りでの神との一致と類似」と定義したが、その内の「神との一致」は否定神学によって、また「神との類似」は象徴神学によって、それぞれ果たされることが判明した。③この「神との類似」という言葉の原語は'άφομοίωσις'であり、元来はプロクロスの用いた術語であったことが分かり、ディオニュシオスの新プラトン主義との思想的繋がりがより明確になった。①~③で得られた成果については、中世哲学会と上智大学共生学研究会の学術大会において研究発表を行った。また、共生学研究会での発表については、学術論文として投稿し、同研究会の会誌に掲載される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に予定されていたフランスでの在外研究が大幅に延長されたことで、想定されていた以上にギリシア語およびラテン語文献の講読を進められたが、その反面、当初の予定であったロシアでの現地調査は次年度以降に延期となったため。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、前年度までに得られたディオニュシオスの神化思想の理解をもとに、同思想が後代の東方キリスト教世界でどの様に受容され、展開されていったかについて研究する。具体的には、「ディオニュシオス文書」が最初期に受容された地域である、エジプトおよびイスラエルでの現地調査と資料収集を行い、同地で得られる資料に基づいて、受入教官の指導の下で同文書のシリア語訳の写本を研究する。これに加えて、ディオニュシオスの思想を受け継いだ代表的な東方キリスト教の著作家、証聖者マクシモス(580頃-662)とグレゴリオス・パラマス(1296頃-1359)の思想研究を行う。
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Research Products
(5 results)