2014 Fiscal Year Annual Research Report
中世キリスト教における神化概念の展開-東西教会における精神性の差異-
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13J08573
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
袴田 渉 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | キリスト教 / 宗教学 / 教父学 / 中世哲学 / 新プラトン主義 / 偽ディオニュシオス / 東方キリスト教 / 神化 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.当初には、偽ディオニュシオスのシリア語写本資料収集と現地調査(エジプト等)が予定されていたにも拘らず、諸般の事情により予定変更を余儀なくされ、同現地調査が次年度に繰り越されたことは遺憾である。しかしながら、これに代わりフランスでジル・ベルスビル教授との面談の機会を得て、前年度に引き続き『神名論註解』の研究を進め、並行して行われたディオニュシオスの原典(『神名論』、『教会位階論』)講読を通して、以下の新たな見通しを得ることができた。(1)彼の「神学」体系の一つ、「肯定神学」と「神化」の関係において、神化とは「神」と「神化される者」、そして後者の「弟子」との三者間で生起する事態であること。(2)これら三者は「エロス」の関係にあること(ここでいうエロスとは、他者への終わりなき欲望故に、寧ろ自己を超えて他者を生かそうとするような、「生命」を巡る情動)。(3)教会の儀礼と神化の関係において、神化は人間の魂だけでなく、儀礼を授受する身体にも関わること、が解明された。これらの成果は、本報告書13欄に記した二つの学会発表と、一本の論文によって公にされた。 2.神化概念の東方キリスト教への展開の研究については、二人の代表的著作家、証聖者マクシモスとグレゴリオス・パラマスの各々の原典(『難問集』および『聖なるヘシュカストのための弁護』)を読解して、次の重要な見通しを得た。すなわち、前者は神化の表現において「〔人間の力に〕能う限りで」という文言を付加する傾向にあり、それによって神化における神と人間の働きの相互性を強調し、後者は神化を神的な光の体験として捉え、光の照明による魂と身体の神化を説いたが、両者にはディオニュシオスの神化の定義「能う限りでの、神との一致と類似」や、彼の神的光の理論からの多大な影響が見られる。以上の成果については現在論文を作成中であり、次年度に学術誌に発表される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定であったエジプトとイスラエルでの資料収集および現地調査が次年度に延期となったが、それに代えて、フランスでの現地研究者との共同研究や、残りの経費を活用して本課題に必要な文献資料を購入することで、本研究を十分に進めることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本年度までに得られた研究成果を踏まえつつ、ディオニュシオスの神化思想の西方教会への受容と展開を跡付ける。具体的には、カトリック教会の総本山、ヴァチカン市国での写本資料収集および現地調査を行うとともに、西方において「ディオニュシオス文書」を註解した二人の代表的著作家、エリウゲナとトマス・アクィナスに見られる神化思想の系譜を研究する。また、前年度に遂行できなかった、エジプトとイスラエルでの写本資料収集および現地調査を果たし、受入教官の指導の下、同文書のシリア語写本研究を行う。
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Research Products
(5 results)