2013 Fiscal Year Annual Research Report
水素のミクロ・マクロ熱流動特性に対する量子効果発現メカニズムの解明
Project/Area Number |
13J08613
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
永島 浩樹 東北大学, 大学院工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 水素 / 量子効果 / 分子動力学 / 熱物性 / 輸送物性 |
Research Abstract |
本年度は、経路積分法に基づいた分子動力学法を用いて、水素分子の量子効果がその熱・輸送物性に与える影響とその分子論的メカニズムを明らかにした。 本年度は、交付申請書に記載した通りに、まずPIMD法を用いて幅広い温度-密度条件における系の圧力および内部エネルギを計算し、Kataokaの方法を用いて状態方程式(EOS)を構築し、古典MD法の結果と比較することでEOSに与える量子効果の影響を解析した。また、重心位置(セントロイド)に働く力からForce matching法より量子効果を考慮した水素分子間ポテンシャルを作成した。さらにセントロイドMD (CMD)法を用い、Green-Kuboの方法より液体水素の拡散係数を計算し、古典MD法の結果と比較することで、水素分子の量子効果がその拡散性に与える影響とその温度依存性について議論を行った。 本研究により、水素分子の量子効果がその熱物性に与える影響は大きく、量子効果を考慮することで、ビリアル圧力が上昇することが明らかとなった。さらに、作成した水素分子間ポテンシャルと量子化学計算より導出した分子間ポテンシャルを比較した結果、水素分子の量子効果を考慮することで、斥力範囲だけではなく、ポテンシャルの井戸の深さが浅くなることを明らかにした。また、CMD法と古典MD法より得られた拡散係数の比較より、量子効果を考慮した場合、温度が低くなるにつれて、拡散に必要な活性化エネルギが低下し、30K以下では古典MD法の活性化エネルギより小さくなることが分かった。これは水素分子の拡散に対する支配因子が、斥力範囲の拡大からポテンシャル井戸の深さの変化に変わったためであると考えられる。これらの研究成果は、従来のMD法では水素の熱流動現象を正確に予測できないことを明確にしたものであり、工学的に重要な燃料である水素を安全かつ効率良く使用するためには、大変有意義な研究成果である。また、本研究では、液体における量子効果の分子論的メカニズムについても明らかにしており、これは学術的に大変大きな意義を持っている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では、量子効果が液体水素の熱伝導率に与える影響の解析まで行う予定になっているが、現在プログラムの作成は終了し、結果の解析を行っている状況であること、また他の解析結果については、学会発表や論文執筆なども行っていることより、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、水素分子の量子効果がその熱伝導率に与える影響について解析を行う予定である。これまでは、水素の静的物性と拡散係数のみについて解析を行ってきたが、水素分子の量子効果がエネルギ輸送メカニズムに与える影響関する研究はこれまで行われておらず、学術的に非常に重要である。さらに、これまでは水素のマクロな熱流動特性のみの解析であったが、今後は水素のミクロな熱流動特性についても解析を行い、水素分子の量子的なゆらぎがミクロな領域の流動特性にどのような影響を与えるかについて調べる予定である。
|
Research Products
(6 results)