2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13J08706
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
新谷 春乃 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | カンボジア / 歴史認識 / アイデンティティ / 王権 |
Research Abstract |
本年度は三度の海外調査を実施し、カンボジアの王権との関連で、1993年以降の与党人民党の現代史認識、王族による歴史認識の復興、モニュメント管理の点で研究成果が出た。第一に、「独立の父」であるシハヌーク評価をめぐる与党人民党の歴史利用についてである。近年人民党内におけるフン・セン首相への権力集中が進む中、歴史教育、モニュメントの建設、テレビ・メディアでの映像作品の放映を通して、2012年に死去したノドロム・シハヌーク元国王とフン・セン自らを結び付ける歴史認識の構築を行ってきた。国民からの信頼の厚いシバヌークを用いることで、フン・セン個人の象徴的権力を拡大する戦略へと結実し、2013年の国民議会選挙で表出したことが明らかになった。この点に関しては、上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科2013年度大学院生・次世代研究者によるワークショップ・シンポジウムシリーズ第1回シンポジウムの「一党支配体制下の政治制度、歴史認識、社会統制―2013年カンボジア総選挙にみる人民党の体制維持戦略」で研究報告した。 第二に、1993年のカンボジア王国復帰後から1990年代末の内戦終結までの期間の歴史書の発行から見る歴史認識の復興についてである。カンボジアのナショナル・アイデンティティの一つである王権の歴史叙述における意味づけは、現代カンボジアにおける王族の存続理由と密接に関連する。1990年代の歴史書発行の動きは、王族からの資金援助によるもので、1970年のクーデタ以来カンボジアの公定史観から取り去られていた過去の王権を賛美するという歴史認識を復興するものであった。 第三に、歴史モニュメントの建設、管理についてである。現代カンボジアにおいて、歴史モニュメントについて公式見解は出されておらず、目本やカンボジア近隣諸国(タイ、ラオス等)の事例を用いて現在構築中であることが明らかになった。この点は今後も継続的に注視したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現地調査、既収資料の分析は継続的に行うことができたが、歴史認識を分析する軸が定まらなかったために、論文執筆が当初の計画通り行うことができなかった点で、上記の達成度とした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、現地調査、資料整理を中心として研究活動を行ってきた結果、研究計画段階では不明瞭であった歴史認識の軸をカンボジアの「王権」に据えることとした。研究成果としては、口頭発表は三度行うことができたが、論文投稿は年度内に行うことができなった。26年度は論文投稿を中心として研究成果を出していきたい。
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Research Products
(3 results)