2014 Fiscal Year Annual Research Report
明治知識人に見る政治への諸志向の解読-知識人論における規範と責務をめぐる議論より
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13J08721
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Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
柴田 真希都 国際基督教大学, キリスト教と文化研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 知識人 / 内村鑑三 / R・ニーバー / 丸山眞男 / 南原繁 / E・W・サイード / 福澤諭吉 / 政治的 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は所期の研究課題に関して、前年度を引継ぎ、主として二つの方法的観点からの研究を深めた。一つ目は知識人論やそれに隣接するテキストにおいて、公共的人間の責務と規範をめぐる議論を資料として集めながら、近代という歴史的時代に、現実の政治現象に対面するさまざまな姿勢を整理し、分析するための理論的枠組みとして依拠するにふさわしい言説を選定することである。二点目は、その理論的言説を背景や補助線としながら、明治の知識人の具体的な対政治的姿勢とその意味するところを明らかにすることである。 1点目に関して言えば、本年度は従来から対象とするE・W・サイードとJ・バンダの著作に加え、ラインホールド・ニーバーや丸山眞男の著作を中心に読み進めた。ニーバーの論点、とくに社会的に劣位に置かれている者の権利の獲得と、その手段としての強制力の行使という議論に着目し、そうした議論を理論枠組みとして援用しながら、ニーバーと同時代の2人の日本知識人(南原繁・丸山眞男)の場合に当てはめて分析したのが「南原・ニーバー・丸山――平和と正義と強制力との関係をめぐって」(『南原繁と平和』(仮)、エディテックス、2015年7月刊行予定)である。 2点目に関して言えば、福澤諭吉や徳富蘇峰の著作を中心に読み進めながら、知識人研究における内村鑑三論の一つの集大成を形作ることになった。東京大学に博士学位論文『明治知識人としての内村鑑三―その普遍主義と批判精神の展開』を提出し(9月)、博士の学位を得た(12月)のに前後して、具体的なテーマを設定して学会発表や論文投稿を行なった。福澤諭吉に関しては内村鑑三との関わりから、戦後の思想史研究で隆盛した「福澤―内村比較論」を取り上げ、その研究史上の視野と論調を整理するとともに、従来部分的にしか論じられてこなかった内村における福澤への視角やその政略批判を含めた評価を総合的に検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理論的探求に関しては、当初想定していたよりもより多くの思想家を取り上げ、その参照すべきテキストを充実させることができたが、その半面、それらの議論を具体的歴史的対象の分析に応用する作業が想定以上に複雑化し、論文制作という点では想定よりも時間がかかっているものもある。ただそれは当初想定していた希望的観測の段取りを反省し、再構築する過程でもあったため、研究課題全体の進展にとってはより慎重な足取りを得ることになったとも考える。作品制作という点では福沢諭吉や徳富蘇峰を扱ったものの公表が本年度中に果たせなかったものの、それに関する論文の構想やそれに伴う資料の選定などの作業は概ね済んでおり、その成果は次年度中に現れる見通しが立っている。一方で当初は想定していなかったR・ニーバーや丸山眞男それ自体を扱う論文を執筆するなど、理論的探求と具体的歴史的事象が切り結ぶ論稿を準備する機会がもてたことは想定外の成果であったと考える。 一方、本年度は博士論文の完成と提出という大きな作業を達成した年でもあり、本研究課題との関連でもそこからいくつかの論文を作成し、学会誌に投稿することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き理論面での探求を充実させながら、具体的な事例研究を進めていく。 時期としては、自我・煩悶や自然主義という言葉で特徴づけられる、精神の内省化が顕著となった明治30-40年代における政治的志向の諸相を、知識人論における近代と政治をめぐる批判的思索を活かしつつ、読み解くことを試みる。またそのような時代精神の中にあっても、国政の基本方針に抵抗的に活躍した知識人の姿勢を整理し、そこに見られた政治的志向あるいは非/反政治的志向の意義を、いくつかの知識人論(E・サイード、J・バンダなど)や近代批評(A・D・リンゼイ、R・ニーバーなど)、並びに丸山真男(『日本の思想』、「近代日本の知識人」、『忠誠と反逆』など)、H・アーレント(『人間の条件』、『過去と未来の間』など)らの議論枠組みを援用しつつ検討する。 具体的な対象としては、時に反政治に見えるような方法をとりながらも、政治・社会への緊張感ある批判的対峙の仕方を保持した二つの思想潮流―キリスト教と社会主義に注目する。人物としては内村鑑三、木下尚江、堺利彦の3人を中心的な対象とし、彼らと彼らの周囲に集まった人物、あるいは彼らが中心となって活動した組織・運動における思索と公的活動の両方向より、内面化かつ社会化の時代における政治的志向の多様な表れを比較考量したいと考える。その際、欧米の知識人論を語るには欠かせない、同時代のドレフュス事件の場合を対照例としながら、足尾銅山鉱毒事件と大逆事件という、二つの大きな事件に象徴されるこの時代の知識人の「活動」と「内省」、それら相関性の変移の意味するところについても、ここに至るまでに研鑽した方法論や理論的枠組みにより解釈を試みていこうと考える。
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Research Products
(6 results)