2013 Fiscal Year Annual Research Report
細胞内の多段階分子シグナルを可視化する蛍光・ラマンハイブリッド分光法の開発
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13J08854
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
瀬川 尋貴 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 蛍光イメージング / ラマンイメージング / アポトーシス |
Research Abstract |
本研究課題は、従来は両立が困難であったラマンイメージングと蛍光イメージングの同時測定を単一のプラットフォーム上で行う新しい顕微鏡を製作し、それを生細胞のシグナル伝達、特に自発的な細胞死であるアポトーシス中のシグナル分子の動態を可視化分析することを目的とする。採択初年度である平成25年度にはまず本研究課題の最も基本であり、かつ最も重要である蛍光・ラマンハイブリッド分光イメージング装置の開発に集中して取り組み、装置の実用化までを達成した。ラインスキャン型のラマン顕微鏡と斜光照明を利用した蛍光顕微鏡を複合した装置の製作を行った結果、ラマン・蛍光のイメージの取得時間は15分程度まで向上した。通常のラマンイメージングで生細胞を測定する場合に比べると10倍程度の速度の向上が実現した。装置の製作と並行して蛍光観察に最適なプローブ分子の開発にも着手し、シアン蛍光たんぱく質とラマン散乱の励起に用いる532nmの励起光の組み合わせであれば余分な蛍光のスペクトルへの混入を防げることを見出した。注意深い光学設計と蛍光プローブ分子設計の結果、蛍光信号をラマンスペクトルに混入させずに測定することができるようになった。 上記研究成果はこれまで困難であった蛍光観察とラマン散乱、特に532nmという比較的短波長の励起光によるラマン散乱の同時観察を達成するものであり、技術的に大きな進歩である。532nmによるラマン散乱では、幾つかのヘムたんぱく質の信号が電子共鳴効果で増幅されるため、その定量や酸化還元状態の分析が行える。従って開発した装置は、蛍光プローブにより生細胞に生じている現象を解析しながら、細胞内ヘムたんぱく質を詳細に解析することを実現する。このような分析は既存のイメージング手法では不可能なものであり、本研究で対象にするアポトーシスに限らない様々な現象における分子の動態をより深く理解することのできる画期的な手法である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
多くの生物試料の測定においてラマン散乱は蛍光による妨害を受けるため、本研究においても開発した蛍光プローブ分子との干渉が生じ解析が困難なものになることが予想されていたが、製作したイメージング装置は非常に良好にラマン散乱と蛍光の信号を分離することができた。測定時間の向上のほか、空間分解能なども非常に良好であり、当初の計画を上回る進展を見せていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究展開として、まず細胞死を誘導する条件の最適化を行う。また、開発した蛍光プローブ分子がアポトーシスに応答した挙動を示すかどうかを確認する。これらはアポトーシス中のシグナル伝達を観察する上での最適な条件を探索するものである。また、電子伝達系において中心的な役割を担うシトクロム類の標準ラマンスペクトルを測定し、生細胞内のシトクロム類の酸化還元状態を共鳴ラマン散乱によって解析するための準備を行う。実際に観察が可能であるかを蛍光プローブ分子を発現した生細胞において確認し、アポトーシス中の細胞のシトクロム類の酸化還元状態の変化を観察する。
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Research Products
(8 results)