2013 Fiscal Year Annual Research Report
経済危機に対する民衆の抵抗運動の研究:カタルーニャのインディグナドス運動の諸相
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13J08978
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
池田 朋洋 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | インディグナドス(15-M)運動 / 社会運動論 / アナーキズム / オルタ・グローバリゼーション理論 / 住宅ローン被害者の会(PAH) |
Research Abstract |
採用初年度の今年度は、研究対象であり現在進行形の社会運動であるインディグナドス運動に関して、短期と長期2度の現地調査を行うことにより、現状の分析が大幅に進行した。研究目的のひとつである社会運動における合意形成の実践に関しては、現地調査出発前の文献調査からこれがオルタ・グローバリゼーション運動と呼ばれる「新しい社会運動」論以後の運動論に基礎を置くものであり、アナーキストらに代表される活動家によって参加型民主主義の実践方法の洗練と「予示的政治」という意義付けの、二つの要素がもたらされていたことが明らかとなった。 2013年5月には、上記の成果を踏まえた上で、スペインのバルセロナ市内の広場での合意形成の実践と抗議の実践について、参与観察およびインタビューを実施した。時期は運動発生から丁度2周年の節目であったが、会議における合意形成の実践は、参加者の人数・種類のどちらも少なくなっており、議論を経ない報告形式に移行していた。これは運動の長期化の中で、普段の合意形成の場や抗議現場が、運動当初は小さかった各社会問題ごとの委員会や地区ごとの小広場へと移っていった結果でもあり、各運動参加者はそれぞれの抱える問題や住んでいる地域へと分散して活動していることが明らかになった。予備調査からの帰国後、上述の文献調査の成果と現状の変化との間の接合を、下記の雑誌論文1件にまとめた。 合意形成と抗議活動の基盤が、多種多様な運動体を含みこむ大きな広場から、それぞれに分化したより小さな活動単位に移行している現状を受けて、2013年10月から2月にかけての現地調査においては、インディグナドス運動の中でも著しく発達した抗議分野である住宅問題に焦点を当てた調査を行った。合意形成と抗議実践の関係は、文献調査においては「予示的政治」の内側に留まっていた。しかし現実には、それは運動の予示的側面には収まりきらないことが判明した。分化した活動体は各自の問題解決のために(例えば住宅問題の解消のために)運動参加者や他の運動体と関係を取り結んでいる。合意形成のレベルやプロセスと抗議実践の関係も、それぞれの社会問題の制度上の背景(住宅ローンの仕組みや法律)や、運動参加者同士の相互関係(例えば活動家と住宅ローン被害者)によって規定される部分が数多く見出された。このように、運動の多層性と社会背景との関係を明らかに出来たことは、合意形成の現場と抗議活動の関係を分析する上で有意義であるだけではない。いまや実践のレベルだけでなく、本研究をより大きな社会動態との関係性から捉えなおす必要があり、またそれが可能なのであり、研究は大きな前進したと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請当初、本研究の目的はインディグナドス運動について、主に議会という場での合意形成のプロセスと、各委員会・各個人のそれに対する解釈・実践活動を明らかにすることであった。本年度はまず文献調査によって、これらの関係性の一端を描き出すことに成功した。その上で現地調査を行ったことにより、現在進行形の運動の変化から、実践レベルの動態だけでなく、その背後の社会状況との関係性をも分析に含むことが可能となった。これにより研究視野の拡大と発展がもたらされた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画においては、広場における合意形成の実践と抗議実践とに焦点を当てていたため、調査対象は広場で活動をしている運動参加者及びその関係者の域を出なかった。しかし、運動が各社会問題へと分化していったという現状の変化と、それらを通して実践と社会状況との関係が分析可能になったという研究の進展から、以下のような方策が要請されている。即ち今後は、合意形成や抗議の現場といっても、専門分化した社会運動体事務所やそれと協働関係にある法律事務所などにも調査範囲を広げる必要性があること。またそれだけでなく、政府や銀行、裁判所といった、当該社会問題にかかわる制度上のアクターも研究視野に入れて、これと社会運動との間の相互関係を捉える必要があること。言い換えれば、実践と社会状況とをつなぐために、研究対象を広げる必要が生じた。
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Research Products
(1 results)