2013 Fiscal Year Annual Research Report
スピン軌道相互作用を用いた半導体中での完全スピン偏極源の電気的創出
Project/Area Number |
13J08985
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
長澤 郁弥 東北大学, 大学院工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 幾何学的位相 / Berry位相 / スピン軌道相互作用 / Aharonov-Casher効果 / スピントロニクス / メゾスコピックリング |
Research Abstract |
平成25年度は, 半導体InGaAsリング配列構造に対しリング面内の外部磁場を印加することで, 電子スピンの位相を制御し, その幾何学的位相を初めて直接的に観測することに成功した。幾何学的位相は, 時間とともに変化する通常の位相(動的位相)とは異なり, 状態のたどる軌跡によってのみ決まるため, 幾何学的に保護されているという特徴があり, 位相のロバストな制御に応用可能である。また, 幾何学的位相はさまざまな現象にあらわれる普遍的位相であり, これまで光ファイバや超伝導体などを用いて数多く研究されてきたが, 電子スピンの幾何学的位相については直接的に観測された例がなかった。 本研究では, Rashbaスピン軌道相互作用と呼ばれる相対論的効果を強く示す半導体二次元電子ガスを用い, 半径が0.6μmのリング構造を配列状に1,600個作製した。リング配列構造全体はゲート電極で覆われており, ゲート電圧を印加することで, スピン軌道相互作用を介してリング中の電子スピンの位相を制御できる。このゲート電圧による量子干渉(電気抵抗として検出可能)の変調はAharonov-Casher効果と呼ばれている。半導体二次元電子ガスに対してリング面内方向に外部磁場を加えながらAharonov-Casher効果を測定したところ, 磁場の印加にともない, Aharonov-Casher位相が正のゲート電圧側にシフトすることが観測された。このシフトは, 面内磁場を摂動として扱った計算および数値シミュレーションにより, よく再現された。摂動計算より, 観測された位相シフトは, 面内磁場によって電子スピンの幾何学的位相が変調されることに起因することが明らかとなった。 以上は, スピンの幾何学的位相を電気抵抗の変化として直接的に観測した初めての結果であり, 幾何学的位相を用いた電子スピンのロバストな制御に向けた非常に重要な成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り, 平成25年度は, 面内磁場によりスピンの幾何学的位相を制御することに成功した。また, 次年度の目標である, 単一リング構造を用いたAharonov-Casher効果の観測に向け, すでに試料の作製が完了している。このほか, Dresselhausスピン軌道相互作用をゲート制御することで量子干渉の異方性を反転させるなどの実験結果も得た。以上から, 当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は, 当初の計画通り, 単一リング構造を用いたAharonov-Casherスピン干渉効果の観測を目指し, 研究を進める。その観測には, スピン位相成分と軌道位相成分の分離評価が最大の問題点となると考えられるが, リング構造の両側にサイドゲートを設け, これに交流電圧を印加することで軌道位相の効果を平均化し, スピン位相のみが評価できるようになると予想している。 このほか, 平成25年度の我々の実験報告を受け, 最近では幾何学的位相のトポロジー転移が理論的に議論されている。この実験的観測も視野に入れ, 研究を進めていく予定である。
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Research Products
(8 results)