2013 Fiscal Year Annual Research Report
「イスラーム的」医療観は現代医療利用を促すか-インドネシア社会の考察を通して
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13J09005
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
嶋田 弘之 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 宗教 / イスラーム / 伝統医療 / 近代医学 / インドネシア |
Research Abstract |
本研究は、インドネシアにおいて人間がムスリムとして生きることの実態を医療という観点から考祭することを目的とする。交付申請書に、「ヴェールが近代医学という権力を社会へと押し広げる機能を有する方で、〈アウラット〉の欲望論は女性達による権力への抵抗の場を構築する」と記載した。病気治療の知と技を有する者に対する潜在的な患者の関係は、特定の権力関係を構成すると考えられるが、医療を巡る権力関係における宗教の役割という問題設定において、本年度は研究の重要な一歩となる成果を得ることができた。 調査旅行は、2013年4-5月(自己負担)と2014年2-3月(科研費使用)の二度にわたって実施し、近代医学に基づく運営形態のイスラーム病院や、〈預言者の医術〉やエクソシズムといったイスラーム系の伝統医療施設を訪問する機会を得た。フーコーが述べたように、近代医学が〈知という権力〉を担うのであれば、伝統医療の施術師が自らの医療行為の正当性を語る際に科学的な実証結果に言及するという事実は、確かに近代医学が知の権威として働いていることを裏付ける。また、イスラームも知の権威として機能するはずだとすれば、預言者が実践していたと伝えられる技術を用いる伝統医療側が、自らの医療行為を直接イスラーム性に接続することができるという点は大きな発見だった。彼らは自分たちの提供する医療が、「真にイスラーム的な」医療だと主張することができるのだ。対照的に、預言者の時代に存在しなかった近代科学技術を用いるイスラーム病院側が、〈イスラーム〉という名を冠する限り、そのイスラーム性の主張を要求され続けるとすれば、彼らはいかに〈イスラーム〉を語るのか。イスラームが特定の医療観/行動の形成を促すかという問いの方向を持つ一方で、逆に、特定の医療観/行動の実践者がイスラームをいかに語るかという方向においても問う。本年度の最大の収穫はその問いの発見にあると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2014年の2月から3月にかけて実施した調査旅行は、必要に応じて補助通訳を同行し、ヴォイスレコーダーを用いて聞き取りを行う初めての本格的な現地調査であった。現地の医療の実態を知ることができたとともに、研究を前進させる新たな問いを発見することもできたため、おおむね順調に進展していると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
まず取り掛かることは、調査結果を論理的な言葉に変換することである。フーコーとタラル・アサドの著作の精読を行い、調査結果を踏まえ、権力・医療・宗教のつながりに関する論理立った文章を組み立てる。そこから具体的な質問事項・必要資料を整理し、今夏に改めて現地調査を実施する。その上で、大学院のゼミを利用し研究結果を発表するとともに、最終的には日本宗教学会出版の『宗教研究』に論文を投稿することを、本年度の目標とする。
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Research Products
(2 results)