2014 Fiscal Year Annual Research Report
「イスラーム的」医療観は現代医療利用を促すか-インドネシア社会の考察を通して
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13J09005
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
嶋田 弘之 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | インドネシア / イスラーム / 伝統医療 / 近代医学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、インドネシアのムスリム社会の文脈において、個人の近代医学に対する態度の形成に宗教がいかなる作用を及ぼしているのかを明らかにすることである。しかし、その他の多くの社会と同様に、インドネシアにおいても人々が医療分野において多元的に行動しているのが一般的事実なのであれば、研究者が前提する近代医学のみに注目するのではなく、伝統医療にも視線を向けなければならない。 つまり、本研究の問題設定は、研究課題「イスラーム的医療観は現代医療利用を促すか」という問題を含めながら、さらに広く、インドネシアのムスリムが宗教的文脈においていかにして「近代医学」と「伝統医療」を理解し、実践しているかということを明らかにする点に置かれる。医療多元性の研究は、外部の研究者が自らの観点に立って「近代医学」(世俗的)と「伝統医療」(宗教的・呪術的)を前提し、それらを当事者がいかに多元的に選択しているかを問題としがちであるが、本研究では、そもそもイスラーム的文脈における「近代医学」と「伝統医療」の形成を問うものである。 インドネシアでは、近代医学を実践する者の多くはムスリムである。彼らにとって化学薬品のハラル・ハラーム問題は重大な関心事であり、ゆえに近代医学の領域は宗教性を帯びる。一方で、宗教的な枠組みの下で行われるイスラーム的伝統医療の一部では、広くイメージされがちな手かざし・悪魔祓い・祈祷のような「宗教的」技術よりも、植物薬利用や吸角法など、治癒の原理が近代医学的にも説明できるような技術が日常的実践の大部分を占める。つまり、宗教的伝統医療が「世俗的」に映るのである。そのような近代医学と伝統医療の観念と実践の背後にあるイスラーム的論理とは何か。それを明らかにすることはイスラームをよりよく理解すること、また、ムスリム社会において宗教と世俗がいかなる関係にあるかを理解することにもつながるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の計画では、平成26年度内に『宗教研究』に関連論文を提出することが目標であったが、同年度内に問題と仮説を的確に論文化することができず、目標達成がならなかった。しなしながら、2015年2-3月に実施した現地調査(インドネシア)の中で、改めて問題設定が明確化したため、その調査で得られた情報は、研究問題の論文化に資する大変貴重なものとなった。それを踏まえて、本年度は『宗教研究』に論文(査読済み)を投稿する計画であり、現在執筆中である。平成26年度内に設定していた目標が達成に至らなかったため、「当初の計画以上に進展している」とは言えないが、研究過程全体という観点からは、問題と仮説の明確化と、それに伴う調査対象の明確化がなされた一年であったため、「おおむね順調に進展している」と自己評価したい。
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Strategy for Future Research Activity |
【研究実績の概要】で述べたように、イスラーム的敬虔の文脈における「近代医学」と「伝統医療」の観念形成と実践を明らかにするという目的に沿って、インドネシアのそれぞれの領域で活動する敬虔なムスリムに聞取りを行い、彼らの宗教観や医療観を明らかにしてゆくことが今後の研究の中核になる。2015年2-3月の調査では伝統医療の実践者にフォーカスを置いたため、本年度に『宗教研究』へ投稿する予定の論文では、イスラーム的伝統医療、とりわけ「預言者の医学」と呼ばれる実践について考察する。一方で、近代医学の実践者(病院の医師など)にとって、近代医学的業務の過程でイスラームがどのような形で問題化しているのかを明らかにする必要もあるため、インドネシアの知人から医師たちを紹介していただき、次回の調査で聞取りを行う計画である。また、日本に留学中のインドネシア人ムスリムで医師である知人もいるので、その方にもお話を伺う予定である。本年度も、夏季と冬季に一回ずつ現地調査を計画しており、研究を進展させるため、それぞれの渡航の機会を有効に活用したい。
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