2014 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀前半の南米南部三カ国における近代スポーツの発展に関する歴史的研究
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13J09034
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松尾 俊輔 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ラテンアメリカ史 / 近代政治社会史 / スポーツ史 / 国際情報交換 / チリ |
Outline of Annual Research Achievements |
4月に、チリスポーツ史研究グループのメンバーらとともに、チリ大学でワークショップを開催した。ここで本研究員は、20世紀初めのチリにおけるスポーツ振興を担う官僚機構の変遷を概観した上で、こうした国家によるスポーツへの介入が、民衆による「下からの」要求に応える形で始められながらも、実際には受益者たちとの水平的な議論を欠いた極めて垂直的な政策として策定され、その結果各社会勢力間での対立や混乱を招き制度的な安定性を獲得できなかったことを論じた。 6月から9月にかけて、ウルグアイを中心に滞在し調査を行った。とりわけ同国観光スポーツ省スポーツ局に保管されている、身体教育委員会の会議録の検討に多くの時間を割いた。また国立文書館において、教育省関連文書の中から上記身体教育委員会に関わる行政文書を収集する作業も行った。 9月には、カタールで開催された国際体育スポーツ史学会にて研究発表を行った。この発表では、ウルグアイ、チリ及びアルゼンチンの三カ国における20世紀初頭のスポーツの国家的制度化の過程を、それぞれ「上からの制度化」「下からの制度化」「制度化の欠如」という形で比較して論じた上で、その歴史的差異が、近代国民国家形成のプロセスの中で国家と社会との関係性がどのような形で構築されてきたか、という三カ国間におけるより広範な社会政治史的コントラストと合致していることを指摘した。この発表は当学会において高く評価され、当学会で大学院生を対象として優れた発表に贈られるRoutledge Junior Scholar Presentation Awardを受賞した。 3月には、再びウルグアイに渡航し資料調査を行った。上記の身体教育委員会会議録の検討を継続して行うとともに、加えて同国の国立図書館や国会図書館などにおいて、20世紀初頭の雑誌や新聞などの定期刊行物、国会議事録といった新たな資料の発掘にも努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一次資料の調査に関しては、ウルグアイの身体教育委員会関連資料をはじめ、これまで研究者によって全く手をつけられていないオリジナルかつ重要な歴史資料を、当初の期待以上に多く発掘している。また、これらの資料の検討作業についても、一部に遅れが見られるものの、大方順調かつ仔細に進めることができている。 また、今年度中には国際会議で二度発表を行った。とりわけ、9月の国際学会で発表したウルグアイ、アルゼンチン、チリの三カ国間における20世紀初頭のスポーツの国家的制度化に関する比較分析は、本研究課題の根幹をなすものであり、なおかつ博士論文の重要な一章を構成する予定の内容である。この点について、2年目の早い段階で適切にまとめることができたのは極めて意義のある進展であった。 一方で、特にウルグアイの事例について、政治史、社会史及び思想史一般についての二次文献の検討が十分に進んでいないことも述べておくべきであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、ウルグアイの観光スポーツ省スポーツ局での身体教育委員会会議録の検討を継続していく。加えて、同国の国立図書館にて20世紀初頭の雑誌や刊行物を調査検討し、一次資料の多様化を図る。同時に、立ち遅れているウルグアイの政治史及び思想史に関する二次文献の検討を進め、同国の近現代史一般についての知識を身に付ける。 また、これまで論文の形で発表することができていないアルゼンチンの事例について、特に国会議事録の分析に着目した論文をまとめ、国際学術誌に投稿する予定である。 加えて、今年度特に力を入れて一次資料の調査を進めてきたウルグアイの事例について、20世紀初頭のスポーツに関わる国家制度の発展の歴史をまとめ、国際学会で発表する。 これらの論文や研究発表をふまえた上で、今年度中に博士論文の執筆を開始する。
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Research Products
(2 results)